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5分でわかる福島県知事選と日本政治のいま
――社会学者・開沼 博

開沼 博 [社会学者]
2014年10月20日
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10月26日、震災後初の福島県知事選が投開票を迎える。立候補者6名のうち、前副知事の内堀雅雄氏が優位とされる「一強多弱」の見方が強く、また多党が内堀氏に相乗りして争点がわかりづらいこともあり、関心が高いとは言えないのが現状だ。しかし、今回の選挙は福島県のみならず、日本全体を占う重要な選挙である。私たちは、福島県知事選の何に注目すべきなのか。『「フクシマ」論』の著者であり、社会学者の開沼博がその全貌を読み解く。

福島県知事選が日本の将来を占う

 福島県知事選が今週末に迫った。

 この知事選は、公示日前から「盛り上がりに欠ける」「投票率が下がるだろう」と言われ続け、現在に至っている。原因として、一人の候補に多党相乗り状態になっていること、政策の違いが見えづらく、争点がわかりにくいことが挙げられる。本当に盛り上がらないのか否かは、選挙が終わってみないとわからない部分もある。ただ、選挙関係者の中にすら「最低の投票率になるのではないか」という予想があり、ましてや、福島県の外で興味を持つ人も多いわけではないだろう。

 しかし、この選挙がそれなりに重要な選挙であることは間違いない。

 言うまでもなく、福島県にとってはこの選挙が、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発事故以降、初めて行われる知事選だ。劣勢にある候補者を応援する人の中には、思い入れが強い故に「世界が注目する選挙だ」などと大袈裟に言う場合もあるが、そこまで言うことはできずとも、この選挙の意味は大きい。

 まず、福島県内にとっては、これまでの県政への住民の評価が問われることになる。同時に、しばしば「復興が遅れている」「先行きが見えない」などと形容される震災後の地域の閉塞感に風穴を開ける策の提示が求められる。

 県政は、原発や放射性物質で汚染されたがれき等の処理、中間貯蔵施設といった、3.11以後に立ち現れた巨大な課題を扱わなければならない。そして、被災住民の住まいの確保や被災していない地域――これは現在の日本全国、どこにでも共通するテーマだが――も含めた雇用や教育・医療福祉などの整備が求められる。

 ただ、それ以上に重要なのは、この選挙が、福島県内のみならず、日本全体の政治の将来を占うものでもあるということだ。この選挙は福島の先行きだけを定める選挙ではない。

 2014年は、珍しく主要な全国規模の選挙がない「空白の年」だった。12年末には衆院選、13年夏には参院選が行われ、この2度の選挙を通して、09年来、政権を担っていた民主党から、自民党は完全に国会の主導権を奪取した。

 そうしたなか、議会において盤石な基礎を築いた安倍政権は、金融緩和・財政出動を軸に円安・株高状況、「アベノミクスによる景気の上向き感」をつくり、政権支持率を安定させている。支持率を低下させる「閣僚スキャンダル」も、内閣改造後数ヵ月でいくつか出てきて、小渕優子経産相の辞任が取りざたされているものの、小泉政権以降の歴代内閣に比べれば「ネタ不足」だったと言って良いだろう。

 背景には、財務・防衛等、軸となるテーマ以外は長期政権を目指した「安全運転」で来たことがあることは確かだ。教育、医療、雇用、あるいは原発、復興などの分野については、目立つ動きを避けてきたようにも見える。

 しかし、「国民全体の支持率が高止まりしている」としても、徐々に失望の色が濃くなっている部分もある。その最たるものは、地域政策だろう。内閣改造以後、担当大臣ポストをつくり「地方創生」を掲げ地域経済活性化策を打ち出そうとしているものの、かねてよりの種々の交付金の削減やTPP導入など、様々な形で、これまで存在した再分配策が切り捨てられてきた。そのしわ寄せが集まる地方からの求心力は、早々に失われ始めている。

 2014年に入り、それが具体的に可視化されたのが、滋賀県知事選だっただろう。今年7月に行われた滋賀県知事選では、民主党系候補と自民党系候補のいずれも新人同士の戦いとなったが、民主党系候補が辛勝した。

 無論、背景には、民主党系候補が前職知事から後継指名を受けていたことなど、より複雑な理由があった。だが、かつて、55年体制が崩れきっていなかった時期であればほとんど想定されなかった、自民党政権下での非都市部の地方知事選における自民党系候補の敗北は、一度政権を失っている自民党には小さくないインパクトを与えたであろうことは間違いない。

 地方選挙は、基本的には地方の各党の県連など地元組織・支援団体が中心に動かすものだが、その知事選に中央政界がいかに絡み、どのようなメッセージが対外的に発せられるのか。そして、誰が、いかなる過程で選ばれるのか。ここには日本全体の政治状況が映ることになるだろう。

 すでに様々に報じられている通り、「空白の年」である2014年には、滋賀・福島・沖縄と、3つの「自民党の勝利が危うい」知事選が続くと目されていた。滋賀県知事選で敗れ、沖縄県知事選でも保守陣営をまとめきれていない状況の中で、福島県知事選がどうあるのか考えることは、多くの人に様々な示唆を与えることになるだろう。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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