表情や声色から他人の気持ちを読み取るのが難しいとされる「発達障害」のなかでも代表的な疾患といわれる「自閉症スペクトラム」。その主な症状は、対人コミュニケーションの障害で、人口の100人に1人以上という割合で認められながら、治療法は未だ確立されていない。
この「自閉症スペクトラム」は2013年、「DSM」(米国精神医学会が出版している精神障害の診断と統計マニュアル)の第5版の診断基準変更によって、これまで「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていた疾患を統合したものだ。 「大人の引きこもり」には、こうして周囲に理解されずに個人の性格的な問題だと誤解され、孤立せざるを得なかった「自閉症スペクトラム」の人たちも数多く含まれている。
東京大学ら4大学が発見
オキシトシン経鼻スプレーの連続投与の効果
東京大学など国内4大学の研究チームは、この「自閉症スペクトラム障害」の治療に対する、ホルモンの一種であるオキシトシンの有効性や安全性を確かめる臨床研究を進めてきた。
その結果、これまでに少人数での経鼻スプレーの投与によって、「他者との信頼関係を築きやすくなる」「表情から感情が読み取りやすくなる」などの効果が得られたとして、7週間にわたる連続投与による臨床試験を11月からスタートすると、先月30日に会見した。
臨床試験の結果によって、対人場面でのコミュニケーション障害に、オキシトシンを医療に用いた開発計画が進むことで、1人悩み苦しんできた当事者に新たな選択肢を提供できる可能性が期待されている。
また、この臨床試験は、採算面などの事情から製薬会社が絡まず、当事者ニーズから“医師主導”によって個々の現場で取り組まれてきた臨床研究を国の委託研究として“大同団結”を実現させた、文部科学省の「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環という意味でも注目される。
会見を行ったのは、東京大学医学部付属病院精神神経科の山末英典准教授、名古屋大学医学部付属病院親と子どもの心療科の岡田俊准教授、金沢大学子どものこころの発達研究センターの棟居俊夫特任教授(金沢大学子どものこころの診療科長)、福井大学子どものこころの発達研究センターの小坂浩隆特命准教授といった「発達障害」を支援したり研究したりしている専門家に、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の加藤忠史プログラムオフィサーを加えた5人。