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失敗は「そこ」からはじまる
【第4回】 2015年1月22日
著者・コラム紹介バックナンバー
フランチェスカ・ジーノ,柴田裕之

好況下で伸ばしたCEOと
不況下で持ちこたえたCEO、どちらがすごいのか?

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会社の新しいCEOが、以前、非常に収益の多い業界で成功を収めた会社のトップだった場合と、ほとんどの企業が撤退を余儀なくされた業界でなんとか生き残っている企業のトップだった場合では、あなたが信頼するのはどちらの人でしょうか?
需要の多い地域でとてもよい成績をあげている販売員を昇進させるか、それとも需要の少ない地域でそこそこの成績をあげている販売員を昇進させるか、どちらでしょうか?
『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、どうすれば「正しい情報」に基づいて意思決定できるのか、解き明かします。

目に見える情報だけで相手を「わかったつもり」になる
――対応バイアス

 ある種の現象を調べるために、思考実験から始めよう。

あなたが町のクイズ競技チームのキャプテンになったところを想像してほしい(クイズ大会では、各チームはトーナメント形式で一般知識問題のクイズの解答を競う)。あなたのチームは、世界じゅうのさまざまな都市のチームと競いあうトーナメントに参加する準備をしている。これは大切な大会で、あなたはとても真剣だ。チームには、数々の大会で勝利を収めてきた優秀なメンバーが3人いるが、メンバーはもう1人必要だ。あなたはその人選を担当している。

 その任務を少し楽にするために、私は候補者を2人に絞っておいた。どちらも2回戦まで勝ち進んだという同程度の経歴を持っている。2人の候補者には雑学に関する異なるテストをランダムに選んでやらせ、能力と知識を評価する。あなたの仕事は、2人の候補者の解答をそれぞれ検討し、どちらをあなたのチームに採用するかを決定することだ。

 あなたが評価している第1の候補者は、雑学テストで10問中8問正解だった。同じテストを受けた人たちの平均点は8.94だった。もしこの人をチームに採用したら、どのぐらい活躍してくれると、あなたは考えるだろうか? この候補者を採用する見込みはどれぐらいあると、あなたは思うだろうか?

 さて、第2の候補者のテスト成績を見てみよう。この候補者は最初の候補者ほど高得点をあげられなかった。彼は10問中2問しか正解できなかった。このテストを受けた人たちの平均点は1.97だった。もしこの人をあなたのチームに選ぶとしたら、どのぐらい活躍してくれると、あなたは考えるだろう? 彼を採用する見込みはどれぐらいあるだろうか?

 明らかに、最初の候補者のほうが2番目よりチームにふさわしく見えるし、あなたはチームの新メンバーとして、2番目より最初の候補者を選びそうに思える。あなたがこの決定に至ると、なぜ私が信じているか、それはのちほど説明しよう――そして、もしあなたがそうしたら、なぜそれが誤りなのか、も。

 ここで示した課題――雑学テストを受けた2人の候補者があげた得点の情報価値を評価するという課題――からは、より一般的な問題が浮かびあがってくる。それは、その場面の影響をきちんと考慮に入れつつ、ある人の行動から、その人が持つ特性(知性や統率力など)をどう推測すればいいのか、という問題だ。

 多くの選択決定の根底にはこの一般的な問題が潜んでいる。たとえば、会社の新しいCEOが、以前、非常に収益の多い業界で成功を収めた会社のトップだった場合と、ほとんどの企業が撤退を余儀なくされた業界でなんとか生き残っている企業のトップだった場合では、あなたが信頼するのはどちらの人だろうか? あなたは、需要の多い地域でとてもよい成績をあげている販売員を昇進させるか、それとも需要の少ない地域でそこそこの成績をあげている販売員を昇進させるか、どちらだろう?

 これらはまったく違う決定だが、根本的な課題を共有している。つまり、あなたはある人にまつわる帰属を判断したうえでその人の能力を評価しなければならないのだ。この課題は単純に思えるかもしれない。なにしろ、個人の行動は本人の気質と、その人が置かれた状況の影響によって決まることは、すでにわかっているのだから。それにもかかわらず、私たち人間は、先ほどやってもらったばかりの、クイズ大会のメンバー選択のような意思決定をするとき、この単純な原則をなかなか当てはめられないようだ。

 もう想像がついたかもしれないが、そのような意思決定は面倒なものになる。私たちには、その人の「内なる自分」を知る手立てがないからだ。私たちは、その人の本当の性格、信念、意図、願望、動機を直接見ることはできない。だが、これらの要素はすべて、他者を理解し、評価するのに欠かせない。私たちはこうした目に見えない要因をじかに観察することができないので、言葉や行動など、実際に観察できるものから推測するという、慎重を要する作業をしなければならない。それならば驚くまでもないが、把握可能な要因を観察することによって目に見えない要因に判断を下すのは、さまざまな誤りのもとになる。

 なかでも、私たちが一貫して犯す誤りがある。いわゆる「対応バイアス」だ。他者を評価するにあたって帰属を判断するとき、私たちは状況の影響を軽視しすぎ、気質の影響を重視しすぎる。もっと簡単に言えば、私たちは、人の行動はその人独自の気質と技能を反映していると信じる傾向が強いが、実際には、多くの場合、その人の置かれている状況のさまざまな面を反映しているということだ。

 スポーツファンなら気づいたことがあるかもしれない。コーチや監督が1シーズンか2シーズン、チームを大成功に導き、絶賛される。その後、別のチームに高報酬で引き抜かれるが、そこでは散々な結果に終わる。契約どおりの報酬支払いを余儀なくされたチームは、監督が采配を揮う複雑な状況や、過去の成功が監督としての本人の手腕ではなく別の要因のせいだったかもしれないという事実を、おそらく考慮に入れそこなったのだろう。

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクールの経営学准教授(交渉術・組織・市場ユニット)。
イタリア出身。経済学・経営学の博士号(Ph.D.)を持ち、ハーバード大学、カーネギーメロン大学等での講師を経て現職。他にも、ハーバード・ロースクールの交渉学プログラム、及びハーバードの「心・脳・行動イニシアティブ(Mind, Brain, Behavior Initiative)」にも正式に関わっている。
意思決定や社会的影響、倫理観、モチベーション、創造性と生産性などを研究対象とし、経済学や経営学、交渉学といった枠組みを超え、社会心理学、行動経済学、組織行動学など、幅広い研究者と積極的に共同研究を行っている。研究成果を広く一般に伝えることにも注力しており、心理学と経営学の一流学術誌だけではなく、「ニューヨーク・タイムズ」、「ウォールストリート・ジャーナル」、「ビジネスウィーク」、「エコノミスト」、「ハフィントンポスト」、「ニューズウィーク」、「サイエンティフィック・アメリカン」など、さまざまな一般向け刊行物にも取りあげられている。
また、得られた組織行動や意思決定の知見をもとに、企業や非営利団体のコンサルタントとしても活躍している。
マサチューセッツ州ケンブリッジ在住。
http://francescagino.com/

柴田裕之(しばた・やすし)
1959年生まれ。翻訳者。訳書にジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』(早川書房)、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房)、ジョン・T・カシオポ他著『孤独の科学』(河出書房新社)、マイケル・S・ガザニガ『人間らしさとはなにか?』(インターシフト)、サリー・サテル他『その〈脳科学〉にご用心』、ダニエル・T・マックス『眠れない一族』(以上、紀伊國屋書店)、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』、フランチェスカ・ジーノ『失敗は「そこ」からはじまる』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数


失敗は「そこ」からはじまる

コカ・コーラ、サムスン、ヤフー創業者……
綿密に計画したはずなのに、
「あの人、あの会社が、なんでそんなことを?」

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綿密に計画を練り上げて意思決定をしたはずなのに、気がついたら違う行動をしていた、という経験はないだろうか?
新しいキャリアを切り拓くために勉強しようと決めたのに先延ばしにし、ダイエットを決意したのに翌日にはサボり、老後のために立てた貯蓄計画は日々の散財でダメになり、顧客ロイヤルティを高めるための新しいマーケティングプランはまったく逆の結果に終わり……。
そう、私たちは往々にして、当初思い描いた計画から「脱線」し、そのせいですぐそこにあったはずの成功を逃してしまいがちだ。そしてその結果にがっかりし、やる気を失ってしまう。

私たちの意思決定は、どうしてこれほど頻繁に脱線してしまうのだろうか?

どうすれば、軌道から外れないようにできるのか?

過去10年、この疑問に答えることに的を絞った研究プロジェクトをいくつも行い、人間心理と組織行動の両方を究めた新進の研究者にしてコンサルタントが、意思決定の失敗の本質、そしてブレずに成功するための「9つの原則」を読み解く。

「失敗は「そこ」からはじまる」

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