ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
失敗は「そこ」からはじまる
【第3回】 2015年1月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
フランチェスカ・ジーノ,柴田裕之

フェイスブックとトム・ハンクスが教えてくれる
「評価」の難しさ
――どうすれば公正な制度を構築できるのか?

1
nextpage

従業員をやる気にさせるための評価システムを作ったはずなのに、かえってモチベーションが下がってしまったこと、ありませんか?
「現実的な数値目標をもとに評価することにしたら、かえって不正が増えた」
「評価をオープンにしたら、みなトップの足を引っ張りだした……」
『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、トム・ハンクスの「悲劇」とフェイスブックの「恐るべき仕組み」から、どうすれば公正な制度を作れるのか、解き明かします。

トム・ハンクスの悲劇
――なぜ彼は3度目のオスカーを獲得できなかったのか?

 私たちは誰かと比べて自分が見劣りするとき、苦痛を感じることがままある。そして自尊心を傷つけられ、それをバネに発奮する場合もあるが、その苦痛が別の結果や感情につながる可能性もある。それを説明するには、あるハリウッドのエピソードが打ってつけだ。

 ご存知かもしれないが、トム・ハンクスは『フィラデルフィア』と『フォレスト・ガンプ/一期一会』で1993年、1994年と続けざまにアカデミー賞主演男優賞を獲得した。批評家の多くは、ハンクスがその後の何本かの作品、たとえば『アポロ13』『プライベート・ライアン』『キャスト・アウェイ』でも同じように優れた演技をしていると評した。だが、アカデミー賞の発表を毎年見ていればわかるだろうが、こうした映画でハンクスは1つもオスカーを取れなかった。どの映画でも、受賞できるだけの票を俳優仲間たちから集められなかった。ハンクスが受賞して当然なのにそれを逃したのは、意図的に冷遇されたせいだと受け止める人が多かった

 この話は、ペンシルヴェニア大学の教授、ケイティ・ミルクマンとモーリス・シュヴァイツァーという2人の研究者の目に留まった。もしハンクスがまたオスカーをもらったらきっと妬みを感じるだろうから、仲間たちは3度目の推薦をやめたのかもしれない、と2人は推論した。

 この仮説を試そうと、ミルクマンとシュヴァイツァーはイギリスにある大手メーカーでフィールド実験を行った。300人を超える従業員がメールでメッセージを受け取る。それは従業員向けの新しい評価プログラムについてのもので、褒賞を与えるために同僚を1人推薦する手順が書かれていた。このプログラムを作ったのはミルクマンとシュヴァイツァーで、会社側もその使用に同意した。参加した従業員たちには、それが実験だということは伏せてあった。受賞者たちは賞品(たとえば盾や商品券)をもらい、社内で表彰される。受賞者は四半期ごとに発表される。

 プログラムについて従業員に知らせるメッセージは2種類あった。参加者の半数は対照群で、彼らには賞を受け取っている従業員の写真と、選出の経緯が書かれたメールが人事部長から送られる。残る半数は「社会的比較」条件に割り振られ、彼らにも同じメールが送られるが、それには短い文が2つ添えられていた。1つ目は、「あなたがいっしょに仕事をしている人ですか?」という文で、受賞者の写真のすぐ下に、2つ目は、「仲間が受賞したらどう思いますか?」という文で、最初の文の下に配されていた。

 ミルクマンとシュヴァイツァーは仮説を立てた。仲間が受賞している姿を思い浮かべると嫉妬心が起こり、その結果、この筋書きを思い浮かべるように導かれた従業員が仲間を推薦する可能性はかなり低くなるだろうというものだ。その後7ヵ月にわたって、この会社は実験に参加した従業員の推薦状況をすべて記録した。するとミルクマンとシュヴァイツァーの予測どおり、対照条件の従業員は、「社会的比較」条件の従業員のほぼ3倍の数の仲間を推薦した。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクールの経営学准教授(交渉術・組織・市場ユニット)。
イタリア出身。経済学・経営学の博士号(Ph.D.)を持ち、ハーバード大学、カーネギーメロン大学等での講師を経て現職。他にも、ハーバード・ロースクールの交渉学プログラム、及びハーバードの「心・脳・行動イニシアティブ(Mind, Brain, Behavior Initiative)」にも正式に関わっている。
意思決定や社会的影響、倫理観、モチベーション、創造性と生産性などを研究対象とし、経済学や経営学、交渉学といった枠組みを超え、社会心理学、行動経済学、組織行動学など、幅広い研究者と積極的に共同研究を行っている。研究成果を広く一般に伝えることにも注力しており、心理学と経営学の一流学術誌だけではなく、「ニューヨーク・タイムズ」、「ウォールストリート・ジャーナル」、「ビジネスウィーク」、「エコノミスト」、「ハフィントンポスト」、「ニューズウィーク」、「サイエンティフィック・アメリカン」など、さまざまな一般向け刊行物にも取りあげられている。
また、得られた組織行動や意思決定の知見をもとに、企業や非営利団体のコンサルタントとしても活躍している。
マサチューセッツ州ケンブリッジ在住。
http://francescagino.com/

柴田裕之(しばた・やすし)
1959年生まれ。翻訳者。訳書にジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』(早川書房)、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房)、ジョン・T・カシオポ他著『孤独の科学』(河出書房新社)、マイケル・S・ガザニガ『人間らしさとはなにか?』(インターシフト)、サリー・サテル他『その〈脳科学〉にご用心』、ダニエル・T・マックス『眠れない一族』(以上、紀伊國屋書店)、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』、フランチェスカ・ジーノ『失敗は「そこ」からはじまる』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数


失敗は「そこ」からはじまる

コカ・コーラ、サムスン、ヤフー創業者……
綿密に計画したはずなのに、
「あの人、あの会社が、なんでそんなことを?」

------------------------------------------

綿密に計画を練り上げて意思決定をしたはずなのに、気がついたら違う行動をしていた、という経験はないだろうか?
新しいキャリアを切り拓くために勉強しようと決めたのに先延ばしにし、ダイエットを決意したのに翌日にはサボり、老後のために立てた貯蓄計画は日々の散財でダメになり、顧客ロイヤルティを高めるための新しいマーケティングプランはまったく逆の結果に終わり……。
そう、私たちは往々にして、当初思い描いた計画から「脱線」し、そのせいですぐそこにあったはずの成功を逃してしまいがちだ。そしてその結果にがっかりし、やる気を失ってしまう。

私たちの意思決定は、どうしてこれほど頻繁に脱線してしまうのだろうか?

どうすれば、軌道から外れないようにできるのか?

過去10年、この疑問に答えることに的を絞った研究プロジェクトをいくつも行い、人間心理と組織行動の両方を究めた新進の研究者にしてコンサルタントが、意思決定の失敗の本質、そしてブレずに成功するための「9つの原則」を読み解く。

「失敗は「そこ」からはじまる」

⇒バックナンバー一覧