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アマデウスたち

中村信喬
100年受け継がれた匠の心

週刊ダイヤモンド編集部
【第33回】 2008年6月13日
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中村信喬
写真 加藤昌人

 父も、祖父も、母の父も人形師。「自分もそうなるために生まれてきた。物心がついたときから、そう信じて疑わなかった」。父は博多で一番の「げってん」(偏屈もの)。「つまらん」。そのひと言で突き返された人形は、明らかに父のそれとは佇まいが違った。「どげんかして追いついてやろう、それだけでここまでやってきた」。

 博多人形といえば、黒田武士ものや美人ものなど、量産品も多く出回っている。しかし、それとはまったく別物だ。薄桃色の肌はまるで呼吸をしているようで、瞬きをした瞬間、表情を変えたような錯覚すら抱く。着衣や髪飾りは、その素材も形状も、時代を生き写しにしている。「作るべき人が初めから見えている。木の中にいれば彫り出せばいい。粘土ならば積めばいい」。これこそ中村家が100年継承してきた匠の技なのだろう。

 古来、人は、災いや苦難に面したとき、人形に祈り、安らぎと癒やしを与えられてきた。信仰や呪術の道具である人形を作るということは、それだけで十分に神聖な業である。「目で見たらいかん、手で作ったらいかん」。父が言葉少なに教えたものは、心にほかならない。

 父は亡くなる前の年に、「おれが死ぬときはこの右手を握って、目に見えんもんを受け継げ」と言った。自分の父にそう言われたように。そのときにはもちろん、東京の美術大学で学ぶ四代目に、右手を差し出すつもりだ。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)

中村信喬(Shinkyo Nakamura)●人形師。1957年生まれ。20代に陶芸家・故村田陶苑、人形師・林駒夫(重要無形文化財)、能面師・北澤一念に師事。太宰府御神忌一千百年大祭の御神牛・菅原道真公像など、作品・受賞多数。カピタンをモチーフにした「長崎幻影」は九州国立博物館に収蔵。日本工芸会正会員。

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