そもそも基軸通貨になるメリットは
どこにあるのでしょうか?

 実は「基軸通貨」には明確な定義はなく、「主たる国際通貨」を意味します。国際通貨とは、国際的な取引・決済に使われる通貨のことです。海外との取引(外国為替)の取引で問題なのは、為替レートが動くことです。企業は先物予約などを使って、リスクをヘッジしています。それが国際通貨・基軸通貨になると、自国の通貨がそのまま使えて、取引がとても楽(為替変動リスクがゼロ)になります。

 さらに本当のメリットは、国、特に通貨当局(中央銀行・財務省)にとってのものです。マクロ経済において、たとえば貿易赤字を刷った自国通貨で払うことが可能になり、赤字の穴埋めができるのです。これはもちろんお札でなくても同様で、このメリットは大きいのです。米国のドル、特にドル紙幣は100ドル札や50ドル札が国内で使えないことからも分かるように、輸出、つまり海外に支払われます。

 しかも、国内の通貨の増刷と違って、国内がインフレになりにくい。さらに、海外で保持されるドルは、預金されたままだと収益性が低いので、米国債が買われることになります。この構図は中国と米国の現在の関係でもあり、中国は外貨準備においてドルと米国債を約4兆ドル保有しています。

なぜ中国は人民元を
基軸通貨にしたいのでしょうか?

 2008年のリーマンショックは米国発の金融危機で、ドルも盤石でないことを示しました。現在、中国は世界第2位の経済大国となり、約4兆ドルという世界一位の外貨準備を保有していますが、その多くがドル建てです。そのため、ドルの不安定さと下落は死活問題でした。

 2009年のG20金融サミットで中国は「IMF・世銀改革」を訴えました。事前に周小川人民銀行総裁は「国際通貨制度改革」に関する論文を公表し、一国の通貨ドルに依存する経済体制は危険で、せめて世界を代表する通貨としてIMFの通貨SDR(Special Drawing Rights:特別引き出し権:ドル・ユーロ・ポンド・円から構成)を示し、そこに人民元も加えるように求めました。しかし、米国の反対で実現せず、それならば、と、本件をきっかけに通貨政策・国際金融政策を反転させ、自ら非ドル圏・中国経済圏の確立に向かい、「30年計画」で人民元をドル・ユーロに並ぶ国際通貨、そして基軸通貨にすべく動き出しました。