ソーシャル・メディアの発達を背景に、企業は消費者とのコミュニケーションが容易になった。ネット上で消費者とともに「共創」を試みる企業は増加するが、小さな成果は生み出せても、イノベーションと呼べるような大きな成果に繋がる事例は少ない。共創コミュニティが直面する3つの課題について考える。

日本の消費財における共創コミュニティの事例 

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川上智子 (かわかみ・ともこ)
早稲田大学ビジネススクール教授。 ミノルタカメラ株式会社(現コニカミノルタ株式会社)を経て、関西大学教授、ワシントン大学ビジネススクール客員研究員・連携教授、ナンヤン理工大学アジア消費者インサイト研究所リサーチフェロー等を歴任。2015年4月より現職。Journal of Product Innovation Management編集委員。日本マーケティング学会理事,日本商業学会理事も務める。専門はマーケティング論、イノベーション論。

前回は、オープン・イノベーションが注目され始めた経緯を解説し、マーケティングの観点からオープン・イノベーションを考察する上でのフレームワークを示した。今回は、4タイプのうち、アイデア・コンテストや共創コミュニティといったマーケティング・インバウンド(MI)型の事例を検討しつつ、3つの課題とその処方箋について考えてみたい。

 最近のマーケティング・インバウンド(MI)型のオープン・イノベーションの事例として、ウェブサイト上で行われているレシピコンテストが挙げられる。料理コンテストはソーシャル・メディアが発達する以前にもあったため、それ自体が目新しいわけではない。しかし近年、レシピ投稿サイトのクックパッドのように、月間5,000万人以上が訪れるサイトをプラットフォームとして活用して、複数のメーカーが自社製品のレシピ等を募集し、受賞作品を基に新製品を開発するといったことがネット上で日常的に行われるようになった。

 たとえば、ミツカンが2008年9月に発売した「金のつぶ 大絶賛納豆絶品しょうがたれ3P」は、同年2月にクックパッド上で行ったレシピコンテストで268作品の中から選ばれたタレを使ったものだ。

 あるいは、日本マクドナルドは、 2014年5月に期間限定で発売した「とんかつマックバーガー」のソースを消費者と共創する「みんなのとんかつソース研究会」を同年6月にスタートさせた。このプロジェクトでは、一般公募で3,000名以上の応募者から15名を選抜し、 マクドナルド側からも開発者やサプライヤー、店員などが参加した。最終的に「まろやかジンジャーソース」「ごまかつソース」の2案に絞られたところで、同年8月に全国60店舗で「とんかつソース全国大品評会」という試食会が開催され、一般消費者1万人以上が投票した。その結果、「ごまかつソース」が商品化され、 10月に定番メニューとして発売されている。