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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

中途採用ばかりが出世する
ベンチャー企業の人心荒廃(下)

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第16回】 2015年5月26日
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>>(上)より続く

 部長と担当役員は、次第に元気を失って行く。大石は密かに喜んだ。いよいよ何かが起きる。そんな直感がした。確かに、社長は決断をした。しかし、それは一段と理解ができないものだった。

 若き部長が関連会社の役員になる、というのだ。そして、担当役員が外資系にいたときの部下がまた、新たに入社するという。しかも、大石よりも数歳若い。挙げ句に、わずか数週間で部長となる。60人を率いるのだ。

 大石は部長になれなかった。

 社長は、さらにハンティングを繰り返した。「タレント崩れ」の男性を役員にしたのだ。担当する部署はなく、メディアに登場することが仕事なのだという。「無責任にしゃべりまくる広告塔」と、社内では茶化される。

社長を中心とした“お友達経営”
長く勤めても決して報われない

 今、ベンチャー企業の経営者の中では世代交代が進んでいる。この40代の社長はここ数年、注目の的となっている。新卒を対象とした会社説明会はショーと化す。社長や役員たちが俳優のように、舞台上で笑顔を振りまく。

 大石は退職した社員らと、時折会うようになった。辞めた社員たちは、大石にこんなことをつぶやく。

 「あの役員たちは、社員のことなんて考えていないよ。年収3000万~4000万をもらっているんだよ。要は、社長を中心とした“お友達内閣”なんだよ。社長はいざとなれば、会社を売りとばせば何十億という金が入って来ると計算済み。すでに上場させたから、数十億の金を握っている。社員たちは、役員どもがいい生活をするための土台要員。みんな、そのことに気がつかない。ベンチャーに長くいる奴って、バカだとつくづく思うよ」

 大石は、今度こそ辞めようと心の中で決めている。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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