「幸せ食堂」繁盛記
【第六回】 2015年6月16日 野地秩嘉

京浜工業地帯のど真ん中にある家族的な食堂で
料理人の心意気を知る

ハムと玉子焼きをつまみに朝からビール

 丸一食堂は川崎駅からバスで10分の「四つ角商店街」にある。京浜工業地帯のど真ん中で、勤勉な工場労働者が働く町だ。

 同店の営業開始は朝の6時30分。早い。

 開店と同時に行ってみた。すると、すでにひとり先客がいた。彼は「生ビールください。それとハム玉子ね」と言った。繰り返すが朝の6時半である。

 出てきた生ビールをぐいっと飲むと、作業服姿の中年客はハム2枚と薄い玉子焼きが載った皿にソースをどばっとかけた。ハムと玉子焼きをつまむと、ふたたび生ビールをぐいっと飲む。そして、「おかわり」と言って、生ビールとハム玉子をもう一杯ともう一皿頼み、どちらも平らげると、そのまま店を出ていった。いい飲みっぷり、食べっぷりである。

「これから仕事かな」とわたしがつぶやいたら、丸一食堂のお母さん、細田美世子が教えてくれた。

「あの方、今日はお休みなんですよ。だから、朝から飲んでるんじゃないの。いつもはご飯だから」

 このように、丸一食堂は川崎の工場に勤務する人たちにとってはなくてはならない、安くておいしい食堂であり、かつ居酒屋でもある。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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