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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

日銀が市場の信認を得るために残る課題

――森田京平・バークレイズ証券 チーフエコノミスト

森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]
【第178回】 2015年7月15日
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インフレ予想が中央銀行にとって
重要となる3つの理由

日銀はコミュニケーションの改善に資する対応策を打ち出したが、依然として課題は残る

 中央銀行にとってインフレ予想が重要であることは今さら言うまでもない。理由は大きく3つある。

 第1に、インフレ予想は実質金利を左右することで、設備投資や住宅投資などの経済活動に影響する。

 仮に中央銀行が名目金利を一定に維持していても、予想インフレ率の変動を通じて実質金利が振れれば、実物経済も影響を受ける。その結果、需給ギャップさらには物価が変動する可能性がある。つまり、インフレ予想の変動は実物経済に対する金融政策の緩和度合いを変更しうる。

 第2に、インフレ予想は価格や賃金の設定行動を変えることで、実際の物価に影響する。

 例えば、企業が物価全般の上昇を予想したとしよう。その場合、その企業自身の販売価格を上げようとするであろう。同様の予想に基づく価格設定行動を多くの企業がとれば、実際に物価が上昇する。また、労働組合が物価上昇を予想すれば、実質賃金の保持の観点から、賃金上昇を企業側に求めるであろう。その結果、賃金が上がれば、企業は賃金の上昇分を自らの販売価格に転嫁するかもしれない。この場合も物価が上昇する可能性がある。つまりインフレ予想は、価格・賃金設定行動の変化を通じて自己実現しうる。

 第3に、インフレ予想は中央銀行に対する信認や中央銀行のコミュニケーションの成否を測る代理変数となりうる。

 仮に経済主体の中長期的な予想インフレ率が中央銀行の目標から大きくずれていれば、経済主体が中央銀行の物価目標を信じていない、あるいは中央銀行の物価目標を認知していない可能性がある。この場合、中央銀行は政策の枠組みやコミュニケーションのあり方の再検討を迫られることがありうる。

 以上3つの理由のうち、日銀コミュニケーションとの関連では3つ目が重要となる。

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森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]

もりた・きょうへい/1994年九州大学卒業、野村総研入社。98年~2000年米ブラウン大学大学院に留学し、経済学修士号を取得。その後、英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所経済調査部を経て、08年バークレイズ・キャピタル証券入社。日本経済および金融・財政政策の分析・予測を担当。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)など。2010年7月より、参議院予算委員会内に設置された「財政再建に向けた中長期展望に関する研究会」の委員を務めている。

 


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

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