東芝の第三者委員会報告は<br />トップと監査法人への追及が甘すぎないかPhoto by Takahisa Suzuki

 東芝の闇はまだ解明されていない。第三者委員会の報告ではとても幕引きとはならない。「組織的な利益の水増し」が明らかになって責任者が罰せらないなら、日本企業の無責任体制を世界に宣伝するようなものだ。

 委員会報告書は二つの点で不十分である。第一はトップの責任。現場の粉飾行為は具体的に書かれている。だがトップの関与は記述が曖昧だ。第二は監査法人の責任。内部監査のいい加減さは、監査委員会が機能しなかったことを詳細に書き、責任者の名前まで特定した。だが外部監査、すなわち監査法人の責任は「諮問の範囲外」として逃げた。この2点が明らかにされないかぎり、東芝問題は「痛い教訓」にならないだろう。

興味を細部に向けさせる目くらまし?
肝心なところが甘い第三者委員会報告書

 報告書は、細部は読み応えがある。事業部ごとにどんな手法で不正が行われたか、よく書き込んである。ところが、そこから導き出される総括は「甘い結論」だ。報告書として落第点である。

 読み手の興味を細部に引き付け、「本当の悪党」の所業を曖昧にした、とさえ思える書きっぷりだ。

 佐々木社長が「チャレンジ」と号令をかけた。月例会議で書類を何度も突き返された。話は面白い。だが決算の粉飾について具体的な「指示・命令」が書かれていない。「トップの責任」がふんわりと描かれているだけ。会社全体の空気が経営者や社員を不正会計に走らせた、といわんばかりだ。元凶を突き止めようという気迫は報告書から感じられない。

「東芝に雇われた委員会」という限界なのか。委員が出身母体におもんばかってのことか。委員長の松田広一弁護士は東京地検特捜部長を務め東京高検検事長で勇退した検察官OBである。その気になれば、歴代の東芝社長の刑事責任に道筋をつけることも可能だろう。一方、どんな報告書で済ませば刑事事件にならないかも分かっているだろう。

 検察庁と太いパイプがある。東芝トップに刑事責任を問えば、個別企業の粉飾決算に留まらない重大事になることは検察も承知だろう。

 原発再稼働が秒読みになっている。原子力政策と深く関わる東芝で、原発事業で辣腕を振るった経営者を手荒に扱えば、政府も火の粉を被る。「政局が不安定な時に東芝から火の手があがるのは好ましくない」という声が自民党にある。

 検察は産業界と浅からぬ関係にある。OBは顧問弁護士や監査役、社外取締役さらには第三者委員会委員など引く手あまた。財界の有力企業は再就職先でもある。

 報告書を読む限り、刑事責任を問おうとう意欲は行間から読み取れない。