不正会計を引き起こした歴代3社長の在任期間は、東芝が時の政権と距離を縮めたタイミングでもあった。国策に寄り添う一方、企業としてのガバナンスの欠如につながった可能性がある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、鈴木崇久、森川 潤)

2013年の田中氏(中央)の社長就任会見で明らかになった西田氏(左)と佐々木氏(右)の確執は、今でも語り草だ
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 2013年中ごろ、東京・霞が関。経済産業省の一室には、東芝、経産省の幹部らが、米国のファンド関係者と向き合っていた。

「STPの電力を購入できるようにするから、シェールガスの契約を結ばないか」。米ファンドの関係者が切り出した。

 STPとは、東芝が米国テキサス州で進めていた原子力発電所のプロジェクト。当初は、東京電力との共同出資の案件だったが、福島第1原発の事故を受け、東電が撤退。その後、米電力会社も離脱したことから、プロジェクトの実現性が不透明になっていた。

 そんな中で、救いの手を差し伸べたのが、経産省だった。原発事故後に原発が停止し、代替となる火力発電の燃料が大量に必要となる中、経産省は、当時価格が安かった米国産のシェールの調達を推し進めていた。

 冒頭のやりとりは、東芝、経産省の両方の事情を知った米ファンド関係者が切り出したものだ。要するに、STPの救済と引き換えに、シェールへの出資を提案してきたのだ。

 こうして9月、東芝は米フリーポート社と、液化加工契約を結んだ。重電会社がエネルギー会社の領域にまで踏み込んだこの契約は当時、衝撃を持って語られた。だが現在、原油価格が下落する中、シェールの価格優位性も薄れ、「誰も買い手がいない」(競合他社幹部)状況が続いてしまっている。

 この一件が象徴しているのは何か。一つは原発事業の拡大がもたらした焦りだが、もう一つは、東芝と国が“共依存”ともいえる関係になっていったということだ。つまり、東芝と国が、それぞれの戦略実現において、お互いの存在がほぼ不可欠になっていたのだ。

「あの会社は、もう“国策企業”だから」

 重電業界では、東芝をこう評する言葉がよく聞かれる。重電分野を持つ企業は、電力やインフラなど官製需要に頼ることが多く、多かれ少なかれ、どの会社も国との関係は大きいが、その中でも東芝と国の“蜜月”は際立っていた。

 まずもって、先述の米ウェスチングハウスの買収自体が、国が推し進めていた原発輸出戦略に寄り添ったものだった。だが、それ以外も枚挙にいとまがない。

 その後も、09年の仏アレバの送電網部門売却の際も経産省が出資する産業革新機構の後ろ盾になり、応札に乗り出した。その革新機構は11年、東芝によるスイスの電力計メーカー、ランディス・ギアの買収に際して550億円を出資している。

 このほか、半導体メーカーのエルピーダメモリが倒産危機に陥った際には、経産省の幹部が、東芝関係者を連れて提携を画策したり、国が医療輸出を掲げると、目玉である重粒子線治療のシステムに本格的に乗り出したりと、まるで東芝は、国の戦略を実現するために動いていると見紛うほどだ。