2015年は、終戦から70年を迎える重要な年である。いわゆる「70年談話」で安倍晋三首相が先の戦争をいかに総括するのかは、日本国内のみならず、中国や米国などの関係諸国でも大きな注目を浴びている。中国問題の専門家は、こうした動きをいかにとらえているのか。ウィルソンセンターフェローのリチャード・マグレガー氏と、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員の加藤嘉一氏が語る。
 

日中関係の健全化は
二国間だけの問題ではない

加藤 マグレガーさんといえば、著書『中国共産党』(草思社)にも代表されるように、中国共産党に関する報道や研究が真っ先に思い浮かびます。現在はワシントンで日中関係について集中的に研究をされていますが、中国共産党の次にとりかかった研究テーマがなぜ日中関係だったのでしょうか。

戦後70年、米国から考える日中関係<br />そのとき、日本のリーダーは何をすべきかリチャード・マクレガー(Richard McGregor)
ジャーナリスト、作家。オーストラリア、シドニー生まれ。現在は米ワシントンDCにあるシンクタンク・ウィルソンセンターのフェローとして日中関係の研究に勤しんでいる。2000年、フィナンシャル・タイムズ上海支局駐在を皮切りに、中国支局長を勤めるなど約20年間、北東アジアでジャーナリストとして活躍。日本や台湾、香港にも駐在経験を持つ。近著に『中国共産党 支配者たちの秘密の世界』(草思社)がある。

マグレガー 日中関係を研究する理由の一つは、それが興味深いからです。日中は地域内だけではなく、世界的に大きなパワーを秘めており、これからさらに発展する可能性を秘めています。もう一つは、米国が日中の二国間関係において非常に重要な存在であるということです。米国という存在がなければ、日本は世界で孤立するでしょう。米国自身も将来どうなるかはわかりませんが、アジアで超大国としての存在感を示そうとしています。アジアにおける二つの大きな力である日中、そして超大国としての米国が絡みあっているというのが私の認識です。

加藤 マグレガーさんは、昨今の日中関係についてどのような印象を持っていらっしゃいますか。日中関係はアジア太平洋地域だけでなく、世界にとっても重要です。日中が歴史的な和解に向けて不断に努力しなければならないという課題もありますし、特にワシントンでしばしば議論されるように、世界中で多くの人々が“日中和解”を願っているように見えます。

マグレガー おっしゃる通り、日中関係は地域レベル、グローバルレベルにおいて重要な関係です。ただし、これは興味深い現象ですが、これだけ距離が近く、文化的にも歴史的にも深い交流があるにもかかわらず、心理的な距離がこれだけ離れている。この矛盾に富んだ関係を紐解きたいという想いも、私が日中関係に取り組む理由の一つです。日中両国にとって、互いに協調しつつ良い関係を築くのは非常に難しく、極めてユニークな関係だと言えます。

加藤 紆余曲折を経て、複雑な日中関係は現在の状態までたどり着きました。日本の社会、世論、政治家たちは、どのように中国と付き合ったらいいのか、いまだ焦点が定まっておらず、混乱しているように見えます。

マグレガー いま、日本は過渡期にあるように見えます。人口減少は続き、経済の再生に奮闘している最中です。この時期をうまく乗り切れなければ、これから停滞していくかもしれません。安倍首相は経済におけるエネルギーを取り戻し、その活性化に取り組んでいますが、外の世界との関係とはいくぶん孤立しているようにも見えます。もちろん、歴史問題等もあり、中国からのプレッシャーも感じているのでしょう。ただ、いずれにせよ安倍首相が、日本再生のためには経済の活性化が不可欠だと考えているのは確かです。私は、「強い日本を取り戻そう」ともがいているという印象を持っています。