「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

「ビジョンを示す」=「未来を示す」ことは、会社の責務か?

 

「この会社のビジョンは何ですか?」
「中期、長期の戦略はどうですか?」

 これまで何度も、社員はもちろんメディアからもこんな質問を受けました。
 その度に、僕はこう応えてきました。

「いや、わかりやすいビジョンは特にありません」

 すると、一部の社員は不安そうな顔をして、メディアの皆さんは残念そうな顔をされる。ちょっと申し訳ないと思うくらい。だけど、ないものは仕方がない。むしろ、「なぜ、ビジョンが必要なんですか?」と尋ねてみたいと思ったものです。

 近年、「ビジョン経営」の重要性が指摘されます。
「ビジョン」とは何か? 経営理念に基づいて、企業の目指す姿を中長期計画のような「目に見える形」で示すこと。つまり、「未来を示す」ということです。それが、まるで経営の責務であるかのように語られています。

 しかし、果たしてそうでしょうか?
 誰にも「未来」のことはわかりません。だから、わからないものを明文化するのは難しいと思うのです。とりわけ、現代は変化の激しい時代。「わからないこと」をさもわかったように語ることのほうが、よほど無責任ではないでしょうか?

 僕自身、これまでの仕事を振り返って、やはり「未来はわからない」と言わざるを得ません。ハンゲーム・ジャパン株式会社に入ったころ、僕たちはパソコン向けのオンライン・ゲームでナンバーワンになることを目標にがんばっていました。しかし、その後、フィーチャーフォンが登場し、次いでスマートフォンが登場。そんな未来を予想し得たか? もちろん、できませんでした。ましてや、LINEが世界数億人に利用されるサービスになるなど、予想してできることではありません。
 これが、ビジネスの現実ではないでしょうか?