>>(上)より続く
いまどき「寿退職」? 結構な身分だな……。面接の時点で、戦力になる前に辞めてしまうとわかっているのに内定を出し、雇い入れる。案の定、彼女たちは数年以内にあっさりといなくなる。そのしわ寄せを、自分たちが引き受ける……。
村田は、こんな不満をいつも胸に秘めていた。ストレスが溜まるばかりで、結婚話を聞くたびに、もう、こんな会社を辞めようとさえ思う。
お見合いは週末が多い。ここ1年は、それをキャンセルし、20代の女性社員たちがやり残した仕事をする機会が増えている。当然休日出勤になるが、その分の賃金は支給されない。時折、学生時代の友人に愚痴をこぼす。そんなとき、憧れだった小田加奈子のことを聞くと、たまらなく空しくなる。
「みんな早く離婚してしまえ」
そして周囲に誰もいなくなった
村田は今、転職活動をしている。今ならば、「若き課長」として労働市場で売れると考えたからだ。ただし大きな理由は、実は他にある。
自分が知らないところで、営業部の河口という20代後半の女性が、結婚式を挙げたらしい。さすがにバカバカしくなったのだ。村田には一切、知らされていなかった。部長以下、十数人が参加した。その中には、村田の部下である非管理職たちも多数いる。
なぜ、課長である俺を呼ばない? あれほどに仕事で尻拭いをしてあげているのに……。残業代ももらえず、無償の行為をしているのに、こんなことを水面下でやっているなんて……。
村田には、河口のこともフォローしてきた自負があった。お世辞にも優秀とは言えない女性だった。むしろ、足手まといと思ったほどだ。それでも、仕事を手伝っていた。
なめやがって……あいつ……。
怒りが次第に強くなる。最近は、河口のフォローはしないようにしている。そうしているうちに、村田の腹に秘めた怒りやコンプレックスを感じ取ったからだろうか、いつしか20代の女性社員が周囲に近寄らなくなった。一方で、早々と数年以内に離婚する女性がいると、うれしさのあまり、誰もいないトイレでほくそ笑む。そして祈る。
早く、河口も離婚しろ……!