創続総合研究所

“先妻の子vs後妻の子”のバトル
~「安心の事業承継」のために、遺言書に明記すべき2つのこと

「みんな株を持っておけ」がアダに

八木 何が問題になったのでしょう?

八木美代子
ビスカス代表取締役

古川 事業承継のポイントは、経営権を担保する自社株と、会社の土地や建物、設備などの事業資産を、新たな経営者に確実に受け継がせることです。ですから、この場合だったら、遺言書を残すなどして、それらを後継者である長男にちゃんと渡す必要がありました。

 会長には、生前、そうした手立ての必要性を折に触れて申し上げてきたのですが、「分かった、分かった」と先延ばしにしているうちに、結局遺言も残さずに急に亡くなってしまったのです。その結果、4割超の会長所有の自社株も、事業資産も、後妻と6人の子どもで、法定相続分(*1)に従って分けられる状況が生まれました。

八木 自社株が分散するのは、最悪ですね。

古川 株については、定款や組織の変更などの重要事項を株主総会で決議できる割合が3分の2以上ですから、経営者はそれだけ保有しているのが理想。持分が50%を下回ったりすれば、他の株主によって解任させられるリスクさえ、生じます。そんな状態では、安定的な経営など覚束なくなってしまうでしょう。

 にもかかわらず、会長はさらに大きなミスを犯していました。生前、「少しでもいいから持っていろ。そうすれば、将来それなりのことがあるだろう」と、子ども全員に株を「渡して」いたんですよ。一人ひとりの持分は5~10%程度でしたけど、仮に後妻側が結束すれば、過半数に迫るような保有割合になる計算でした。

八木 後妻側は、経営権を要求してきたのですか?

古川 いいえ、具体的に言ってきたのは、「しかるべき金額で、自分たちの持っている株を買ってほしい」ということです。さきほど述べたように、会社の事業用地なども、新しい経営者がまとめて相続するためには、遺産分割協議での、相続人全員の同意が必要な状況になっていました。「判子を押す代わりに、株を引き取ってもらいたい」というわけです。すったもんだの末、「経営を安定させるためにはやむなし」と、ご長男は銀行から億円単位の借金をし、株をすべて買い取りました。

八木 ご長男としても、思わぬリスタートとなってしまったわけですね。

古川 現在はさらに代替わりして、その方の子どもが事業を継いでいるのですが、いまだにその時の借金を返済中です。このように、事業承継のミスは尾を引くのです。

*1 民法で定められた、相続人の財産の取り分。このケースでは、配偶者(後妻)が2分の1、残り2分の1を6人の子どもで按分する。

創続総合研究所 特集TOPに戻る

SPECIAL TOPICS

 


八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

⇒バックナンバー一覧