2月2日に発売を開始した、キリンビバレッジの「午後の紅茶 エスプレッソティー」が近年まれに見る大ヒットとなり話題となっている。
発売開始後、1ヶ月で50万ケースを販売。速報では3月末で80万ケースを販売した。年間目標が100万ケースなので驚異のペースだ。しかも、190グラム入りの小缶ワンサイズだけの展開で獲得した販売数である。
ヒットの要因は、第一は味。「エスプレッソ」という名の通り、紅茶葉を高圧抽出して際立たせた渋みと、低カロリー志向とは一線を画して牛乳や砂糖をしっかり使用して作り出した濃厚な味わいが受けたようだ。
キリンビバレッジの調査によれば、「エスプレッソ」と「紅茶」いう名前から来る味への興味や期待が、購入動機として多く挙げられているが、それらの期待に応えたかっこうだ。
第二の要因として見逃せないのは、この味付けによって缶コーヒーユーザーを獲得できたこと。調査によれば、エスプレッソティーが飲まれている時間帯やロケーションは、缶コーヒーのそれと、ほぼ重なっていた。従来の「午後の紅茶」シリーズの飲用シーンには、“おやつのお供”などオフタイムが多かったが、エスプレッソティーは逆に仕事中や仕事の休憩時間などオンタイムでの飲用が多かったのだ。
缶コーヒーといえば毎日欠かさず飲むユーザーや、1日に4~5本も飲むようなヘビーユーザーが多いことで有名だが、こうしたユーザーが愛飲する缶コーヒーのうち数回をエスプレッソティーに切り替えたという。
10年にわたり缶コーヒー開発を担当してきた技術者を、昨年から紅茶の開発に投入した成果が出た。
「奇抜さが受けたり、キャンペーンで盛り上がったりして作られた数字ではないので、1年に1つ出るか出ないかの定番化商品になりそう」(キリンビバレッジ)と期待は大き い。
今回のヒットで予想されるのは後追い商品の登場だ。
エスプレッソティー自体は一般名詞なので、当然、同じ切り口の商品の登場も予想される。
特に、今回のヒットは次の2点で後追いがなされそうだ。
第一にオンタイム市場を狙うケースが出てくること。
最近の飲料業界のトレンドは、ブレンド茶のようにペットボトルを出勤途上に買うユーザーが多いことから朝市場、「ジャワティー」のように外食が減って増加中の「内食」市場を狙ったケースが多いが、エスプレッソティーのヒットでオンタイム市場もまだ潜在力があることが確認された。
もう1つは、とにかく紅茶系飲料を出すこと。
昨年、飲料市場は前年比97%と苦戦した中で、紅茶系飲料は微増傾向。しかも、缶飲料市場では紅茶はコーヒーの3分の1の規模で、拡大の余地は大きいと見られているからだ。
実際、アサヒ飲料は紅茶飲料の「TeaO」ブランドを新設、伊藤園は米国で展開していた「ティーズティ」ブランドの逆輸入を開始したように、各社は紅茶に注力中。エスプレッソティーが紅茶市場の潜在成長力を証明したことで、今後も各社が知恵を絞った紅茶系飲料が続々と登場してくることは必須だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)