2015年9月19日深夜、安保関連法案が可決、成立した。これを受け、中国外交部は「戦後日本の軍事安全領域でこれまでになかった挙動」とし、日本は軍事力を強化し、専守防衛政策と戦後歩んできた平和的発展を放棄するのか」とコメントを発表した。

安保法制を「中国がターゲット」と受け止めた中国人の関心は高かった (写真:首相官邸HPより)

 日本の安保関連法案をめぐる動向については、以前から中国でも取り上げられており、中国の民衆もこれに関心を向けていた。「中国をターゲットにした法案」だと受け止められているため、中国では法案が可決されると同時に動揺が起こった。

 人民日報は連日、「安保法案を無理やり押し通す安倍政権、将来に無数の禍根」「安保法案成立、時代の流れに逆行する危険な動き」などと掲げ、これを牽制した。一般市民からも「日本はこれから戦争を始めるのか」「世界大戦がまた始まるのか」などの声が上がっている。

 国際問題の専門家も日米同盟の強化がもたらす中国への影響を懸念している。

「日米同盟の強化で米国は魚釣島にも介入し、日中両国による話し合いでの解決がいっそう困難になる。台湾海峡での衝突に米国が武力介入すれば、国家統一の大きな妨げにもなる」(中国社会科学院アジア太平洋と地球戦略研究員)

「米国は日本を利用し、(日本列島、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ)“第一列島線”の防衛を開始し、太平洋に出ようとする中国の海洋進出を封鎖するだろう。米国は第一列島線の防衛を日本とオーストラリアに負わせようとしている」(中国の海軍軍事学識戦略研究室研究員)

 中国はこの法案を「安全保障上の新たな脅威かつアジア太平洋地域の均衡を狂わすもの」と受け止めている。早晩これに呼応する形で、中国がさらなる行動を起こす可能性も考えられる。

安保法案成立後も
中国政府は静寂を保つ

 安保関連法案が中国を仮想敵にしたものならば、法案可決と同時に、過去に繰り返されたような官製デモが中国全土で仕掛けられてもおかしくはない。法案の可決は中国にとって「日本叩き」の格好の材料にもなり得るのだ。

 ところが、中国は不気味なほど静かだ。外務省報道官のコメントは、これまでのように国民感情を焚きつけるものではなく、極めて冷静なものにとどまっている。習近平国家主席は訪米を目前に、今騒ぎ立てるのは不利と読んだのかもしれない。