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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

患者に恫喝される20代女性職員を見捨てた
大学病院の人心荒廃

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第33回】 2015年9月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
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 当連載は今回をもって終了する。最終回では、つい最近都内の有名私立大学の医学部付属病院で起きた「事件」を取り上げたい。

 受付の女性職員に「言葉による暴力・脅迫行為」をする男性がいた。男には、そのような思いはないのかもしれない。しかし、現場にいて一部始終を見ていた筆者からすると、それは「脅迫」にしか見えなかった。

 しかも、職場にいる他の職員たちは、誰もこの女性を助けようとしなかった。なぜ、名門大学病院の中で、しかも衆人環視の中で、こんな問題が生じたのか……。それを考えていくと、この病院という大組織の中で見た光景からは、多くの企業がぶつかる問題が透けて見えてくる。


病院の受付に鳴り響く患者の怒号
顔面蒼白で対応する若い女性

明らかに異常と思われる患者に怒声を浴びせられる受付の20代女性を、誰もが見て見ぬふり。大学病院の人心荒廃は、なぜ起きたのか

 「だから、何度も同じことを言わせるな!」

 9月24日、午前10時――。

 「さっきと同じことを聞くな!」「だから、何度も同じことを言わせるな!」

 70代前半と思える男性の低く太い声が、フロアに響く。この病院の患者だが、その声には張りがある。老人とは思えないほどに背中は広く、背筋がまっすぐに伸びている。

 ここは、大学病院の消化器内科の受付。JRの某駅から数分の場所にある私立大学の医学部だ。がんの出術や治療で「権威」と呼ばれる医師が多数在籍することで知られている。

 男性が罵声を浴びせているのは、受付の20代半ばとおぼしき女性。入職し、数年を経た感じだった。背が170センチほどと長身でスリム。目が大きく色白で、清潔な雰囲気がある。

 筆者がこの病院を訪れるようになったのは、1995年からだ。年に数回のペースで、胆嚢や胃などの検査を行なっている。十数年前までは、受付に3~4人の女性職員がいたが、ここ5~8年は常時2人になった。しかも、以前は40~50代のベテランの女性たちが多かったが、今の平均年齢は20代後半くらいと若くなっている。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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