当連載は今回をもって終了する。最終回では、つい最近都内の有名私立大学の医学部付属病院で起きた「事件」を取り上げたい。

 受付の女性職員に「言葉による暴力・脅迫行為」をする男性がいた。男には、そのような思いはないのかもしれない。しかし、現場にいて一部始終を見ていた筆者からすると、それは「脅迫」にしか見えなかった。

 しかも、職場にいる他の職員たちは、誰もこの女性を助けようとしなかった。なぜ、名門大学病院の中で、しかも衆人環視の中で、こんな問題が生じたのか……。それを考えていくと、この病院という大組織の中で見た光景からは、多くの企業がぶつかる問題が透けて見えてくる。


病院の受付に鳴り響く患者の怒号
顔面蒼白で対応する若い女性

患者に恫喝される20代女性職員を見捨てた<br />大学病院の人心荒廃明らかに異常と思われる患者に怒声を浴びせられる受付の20代女性を、誰もが見て見ぬふり。大学病院の人心荒廃は、なぜ起きたのか

「だから、何度も同じことを言わせるな!」

 9月24日、午前10時――。

「さっきと同じことを聞くな!」「だから、何度も同じことを言わせるな!」

 70代前半と思える男性の低く太い声が、フロアに響く。この病院の患者だが、その声には張りがある。老人とは思えないほどに背中は広く、背筋がまっすぐに伸びている。

 ここは、大学病院の消化器内科の受付。JRの某駅から数分の場所にある私立大学の医学部だ。がんの出術や治療で「権威」と呼ばれる医師が多数在籍することで知られている。

 男性が罵声を浴びせているのは、受付の20代半ばとおぼしき女性。入職し、数年を経た感じだった。背が170センチほどと長身でスリム。目が大きく色白で、清潔な雰囲気がある。

 筆者がこの病院を訪れるようになったのは、1995年からだ。年に数回のペースで、胆嚢や胃などの検査を行なっている。十数年前までは、受付に3~4人の女性職員がいたが、ここ5~8年は常時2人になった。しかも、以前は40~50代のベテランの女性たちが多かったが、今の平均年齢は20代後半くらいと若くなっている。