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社長! 御社は銀行からまだまだおカネを借りられますよ!
【第4回】 2015年10月8日
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村上浩

銀行を裏切り借金を踏み倒そうとした企業の末路
中小企業のための銀行対策(4)

銀行相手に計画倒産など
「どうあがいても不可能」

どんなに事業環境が芳しくなくとも、銀行とは真摯に付き合い、味方にするべきです。「手を切る」などもってのほか。

 中小企業の再生コンサルタントという仕事柄、私はクライアントである中小企業の社長の方から、銀行からの借り入れについて相談を受けることが多いです。例えば、「今の財務状況は芳しくないかもしれないが、事業を再生するためには新規融資が不可欠だからなんとかしてほしい」「経営を立て直したいので、しばらく借入金の支払いを止めてほしい」というような依頼を受け、銀行に交渉しています。

 ほとんどの方は、再生をはたすべく真摯に事業に向き合っているのですが、なかには、人から聞いたのか、本に書いてあったのか、計画倒産などをして債務を踏み倒そうという誘惑に駆られる人がいます。

 はたして銀行に対して「借金踏み倒し」をすることなど可能なのでしょうか。結論を先に行ってしまうと、「どうあがいても不可能」。ひとたび金融機関に裏切り行為を働くと、どんなに紳士的な担当者でも、全力で回収に走り、御社をつぶしにかかってきます。彼らは金融取引のプロ。ちょっとした悪知恵ではまず歯が立ちません。

 計画倒産どころか、勝手に口座を変更するなどしても彼らの怒りを買います。そうするとどうなるか具体的にイメージしていただくために、倒産の憂き目にあった企業をいくつかご紹介しましょう。

第二会社を使って
計画倒産を画策したA社の場合

 A社は公共事業に依存する典型的な地方の建築会社である。売上高は約8億円、借入金は約10億円、1億円以上の累積赤字を抱え、債務超過に陥っていた。このため、数ヵ月前にメイン銀行から一方的に新規融資の打ち切りを宣告された。

 資金繰りに窮した社は賭けに出る。社長の長男に別の建設会社を設立させ、A社の所有する資産を移転し、債務は社に放置して借金逃れを画策したのだ。しかし、この動きは建設業協会に参加する他社に知られてしまい、メイン銀行に通報された。怒った銀行は「詐害行為取消権」を行使。これは「銀行の損になると知っていながら債務者が資産譲渡などの法律行為をした場合、債権者は無効にすることができる」という法律上の権利のことだ。

 結局A社と長男の第二会社は、ともに銀行に資産を押さえられて倒産の憂き目に遭ってしまった。破産を選択した社長夫婦は、自宅などの全財産と収入源の両方を失った。もちろん従業員も全員失業するはめになった。

口座凍結を避けるために
他行に資金を移したB社の場合

 木材加工業のB社は売上高7億円、借入金5億円の中小企業。外国産材の普及などの環境の変化に伴い、国内の木材市場は毎年規模を縮小させていた。B社の売上高も減り続け、ピーク時と比較して4分の1にもなってしまった。赤字体質がなかなか改善できず、もがいていた。

 B社は表向き資本超過だったが、在庫や売掛金に含まれる不良資産を考えると、実質的に債務超過だった。金融団は経営改善努力が必要な取引先だという認識で一致していたが、構造不況業界で奮闘するB社を応援したいという声が多く、運転資金が必要なときは資金繰り支援を続けていた。

 しかし実態は、金融機関が思っている以上に逼迫していた。B社には、決算書に載せていない借入金が数千万円単位であった。しかも高金利の金融業者やノンバンクからのものであり、返済がひとたび遅れれば即刻強硬な取り立てに遭うことは容易に想像できた。

 そんななか、B社の同業他社からメイン行に重要な情報がもたらされた。「昨日、別の都銀でB社の経理の子を見かけたよ。窓口で総合振込の手続きをしていたけど、B社は御行がメイン行なのにおかしいと思ってね......」。社長は、近い将来延滞が起きて口座が凍結されるのを恐れ、別の大手銀行に売上金受け皿用の口座を開設していたのだ。

 メイン行は社長を呼び出し、白状させる。資金はもとの口座に戻ったものの、信頼関係はすでに失われてしまった。メイン行は従来方針を180度転換し、不透明な財務状況の実態を把握するまでは新規融資を断るようになった。異変に気づいたほかの金融機関も融資姿勢を改める。結果、資金が尽きたB社は借入金返済を延滞してしまった。銀行にとって「延滞先」は「悪」そのもので、解消しなければ追加融資はありえない。もちろん、B社は倒産の憂き目に遭った。

取り立てを恐れ、
あらかじめ役員全員を解任したC社の場合

 最後のC社は売上高3億円、借入金2億円の金属加工業者で、長引く不況の影響で債務超過額は数千万円単位に及んでいた。取引金融機関の格付けは「破たん懸念先」。リストラを断行して人当たりの生産性を高めていたので直近の業績は改善傾向にあり、すぐに倒産するとは金融団の誰もが想像していなかった。

 しかし、実は社長はすでに返済を諦めていた。今の返済ペースでは、債務を完済するのは300年先だった。他の役員に迷惑をかけられないと考えた社長は、自分以外の役員(妻・実弟・地元の番頭)3人を密かに取締役から辞任させた。倒産した際に取引先から責任を追及されないためだ。

 ほかのケースにもれず、この情報は同業他社から銀行に伝わった。銀行からの呼び出しに最初はシラを切っていた社長だったが、登記簿謄本を突きつけられ、あわてて事情説明する羽目になってしまう。銀行はやる気のある経営者には協力しても、返済を諦めてしまった経営者には協力しない。結局C社はこれ以上メイン行と取引ができずに廃業し、社長とその家族は仕事だけでなく、担保だった自宅をも失った。

銀行に配慮した計画を立て、
再生に成功したD社

 このように怒らせると怖い銀行ですが、真摯に向き合えばとても心強い味方になります。A、B、C社とは逆の立場をとったD社のケースを見てみましょう。

精密機器部品メーカーであるD社は創業からずっと堅実な経営を続けていた。創業者の会長は地元の商工会議所で役員を務めるほどの有力者だ。しかし、リーマンショック後に受注が激減、発注元から度重なるコストダウン要請を受け、業績は急降下してしまう。2007年度に20億円あった売上高は翌年には8億円まで減少した。

 さらに2005年に設備投資資金として7億円を借り入れたばかり。このままではとても約定どおりの返済は続けられないと考えた社長は、メイン行を含むすべての取引金融機関と交渉を重ね、返済条件を変更してもらうことに成功した。「景気が回復して資金繰りが安定するまでは元金返済を棚上げし、利息だけを支払う」という破格の条件を認めさせたのである。

 ところが景気は一向に回復せず、事態はまったく好転しなかった。派遣社員をリストラし、雇用調整助成金を申請することでかろうじて生きながらえたものの、リーマンショック後に2年連続で1億円を超える最終赤字を計上してしまう。債務超過に転落し、一時期は1億円以上あった当座預金残が500万円にまで激減。一方で借入金は全行合わせて10億円を超えてしまい、メイン行からは「破たん懸念先」に格付けされたようだった。社長が筆者を訪ねてきたのは、そんな絶望的な状況のなかだった。

銀行から新規融資を引き出すためには銀行の立場に立った計画を立てるべき、という筆者の助言を全面的に聞き入れた経営改善計画が策定された。社長は決して聖域を作らず、計画どおりの再生を進めた。この実績が評価され、メイン銀行から1億5000万円もの新規融資が実行されることになったのだ。実に3年ぶりの融資だった。

 D社はこの資金で生産ラインの一部にロボットを導入したほか、買掛債務を整理し、材料費・外注費の単価切り下げに成功。製造コストを大幅に削減した。同時に新規取引も開拓。需要が好転した現在、D社の売上高はまだ15億円程度だが、2013年の経常利益は8000万円、債務償還期間は12年まで圧縮され、見事再生を果たした。

 どんなに財務が傷んでいようが、A,B,C社のように銀行を出し抜こうとしてはいけません。むしろ、本気で再生したいのであれば、D社のように協力して味方につけるべきです。

 金融機関といえど基本的には民間の株式会社であり、当然「利潤の追求」が1つの目的。株主の要請に応え、毎年安定した利益を出さなければならないのは他の業種と変わりません。不良債権は増やせないし、監督官庁の方針は守らなければならないのです。このような事情をふまえて交渉に臨めば、相手側の姿勢は驚くほど変わります。仮に現時点で財務状況がどんなに傷ついていても、これから融資を受けて再生する可能性は十分にあるのです。

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村上浩(むらかみ・ひろし)

株式会社リンクス代表取締役。
1985年大学卒業後、足利銀行に20年間勤務。17年間、複数の本支店で融資、債権回収業務に携わる。回収業務では、ゼネコンを中心にバブル期に大量に貸し付けた資金を回収した。
2002年、足利銀行がデフォルトを起こす直前、取引先の再生支援を目的に新設された「企業支援部」に配属、様々な再生手法を学ぶ。当時の栃木県は、企業再生件数が東京都に次ぐ(日本)国内2位であり、県内の地方銀行2行のうち1行、信用金庫10行のうち5行が国有化・統合された。そのような特殊な環境下で、中小企業の再生業務の経験を積む。
足利銀行デフォルト後も融資実務に携わるが、取引先再生支援の判断を機械的なスコアで決めることに違和感を覚える。貸出額10億円未満の中小・零細企業も事業再生の機会を与えられるべきだとし、企業支援部時代の同僚と、再生コンサルタント集団「リンクス」を2006年に創業。クライアントの半分が「破たん懸念先」か「実質破たん先」のどちらかという過酷な環境の中、200社以上のうち150社の再生に成功。産経新聞、日本経済新聞(栃木版)などメディア掲載多数。


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