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【書評】空海 高村薫著

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2015年10月31日
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直観と論理が一体化した宗教家

空海 高村薫著 定価:1,944円(税込)

 ことしは空海が高野山を開いて1200年目。南海電車をはじめ、あちこちにポスターが貼られている。しかし、高村薫の『空海』は、たんなる1200年記念企画ではない。彼はどういう人だったのか、何を見て何を感じたのか。それを考えながら小説家は、空海の足跡を辿っていく。まるで空海の頭のなかをトレースするように。

 空海は多面的な人だ。真言宗の開祖としての宗教家であり、書の天才であり、土木工事を指揮したエンジニアであり、のちの種智院大学・高野山大学のもととなる綜芸種智院をつくった教育者でもある。朝廷とも近いが、大衆にも愛されている。「お大師さん」「弘法さん」と親しまれているお寺は多く、空海ゆかりの温泉なども全国にある。四国をめぐるお遍路さんだって、若い空海の山林修行がそのお手本だ。

 しかし、その業績があまりにも多方面にわたるので、実像はイメージしにくい。だから著者は、高野山や東寺だけでなく、さまざまな場所で、感じ、考える。

 帯にも引かれているが「二人の空海がいたと考えなければ説明がつかないだろう」という言葉がある。もちろん実際に空海が二人いたという話ではなく、彼の両義性、あるいは多面性を指す。

 だが、「二」は空海のキーワードかもしれない。四国での山林修行時代、金星が全身に飛び込んできたという神秘体験と、その徹底的に論理的な思考態度。留学した唐ですぐ認められるほどの高い中国語能力と、日本の山野で鍛えた身体。精神と身体、直観と論理が高い次元で一体化したのが空海だったのではないか。

 ……と、ここまで書いて気がついた。精神と身体、直観と論理の融合といえば、著者、高村薫の小説こそそうではないか。『新リア王』などでの一見、抽象的な議論は、作家自身の直観を緻密な論理で裏づけていくことで成立している。このドキュメントは、書かれるべくして書かれたのだ。

週刊朝日 2015年10月30日号

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