満を持して打ち出されたアベノミクス「新三本の矢」は内需拡大の起爆剤となるか。日本を下支えする地方の経済は蘇るか。そして、中国経済の減速やTPPの大筋合意が日本に与える影響はどれほどのものか。経済財政諮問会議議員など政府の要職を歴任し、国の中枢から日本経済の行方を見据えながらあるべき姿を提言し続けてきた高橋進・日本総合研究所理事長が、足もとで企業経営者が知っておくべき「経済の新潮流」を解説する。
アベノミクス「新三本の矢」は
なぜ打ち出されたのか?
アベノミクスの第一ステージにおける旧三本の矢が「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」だったのに対して、アベノミクスの第二ステージでは、新三本の矢として「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」が打ち出されました。アベノミクスの「新三本の矢」は、どのような理由で考案されたのでしょうか。
まず、「強い経済」を謳った第一の矢は、旧三本の矢を状況の変化も踏まえながらさらに強化していくという観点から生まれました。そして第二、第三の矢は、第一の矢で経済を強化する一方、財政や所得の再分配に目配りすることによって、大きな構造的な問題だった少子化や社会保障(特に介護)にも斬り込んでいくという覚悟を示したものです。
旧三本の矢は、デフレ脱却、経済再生を第一に考えたものでしたが、新三本の矢は旧三本の矢の進展を見据え、より構造問題に踏み込んでいくという意味合いが強いと言えます。
そもそも新三本の矢が打ち出される以前、今年6月末に発表された成長戦略の改訂版(「日本再興戦略」改訂2015)では、すでに「アベノミクス第二ステージ」という言葉が使われていました。これまでのアベノミクスは、経済の好循環が始まり、デフレ脱却宣言までは至らないものの、景気回復基調がそれなりに見られるなか、世の中の需要をいかに押し上げていくかに主眼を置いた政策運営でした。
一方、アベノミクスの開始から2年半が経ち、供給サイドにおける人手不足や雇用問題など、労働のボトルネックが見え始めた。企業の投資がなかなか盛り上がらないこともあり、生産性上昇の壁も見えて来ました。そのため、より供給サイドに目配りすべく、労働力の引き上げに主眼を置く成長戦略の改訂が行われたのです。
さらに、その後思わぬ不透明要因が出てきました。1つは中国経済の減速で、外需を頼みとする日本にとって大きな不安となり、内需の強化もさらに重視されるようになりました。2つ目は、昨年の消費税引き上げの後遺症が思いのほか長引いていることです。そうした経済環境の変化を踏まえた上で、新三本の矢が打ち出されたのです。