リーダーはそれぞれの「領域」を尊重し、
自分の「領域」に責任を持て

 人間には、生まれ持ったもの、幼少期の環境、今までに接してきた人の価値観、これまで体験してきたことなど、その人にしかわからない様々な事情があります。

 人それぞれの様々な事情のことを、私はその人の「領域」と呼んでいます。自分の「領域」は自分にしかわからないし、相手の「領域」のことは本人でないと本当のところはわかりません。

 第1回の連載でも説明しましたが、職場の人間関係では、ともに過ごす時間が長い割には、相手のことをよく知らないものです。出身地さえ知らないということもあります。

リーダーは、それぞれの「領域」を尊重しよう出典:『自分でできる対人関係療法』水島広子著、創元社、13ページより

 私が専門とする対人関係療法では、人間関係を上記のような三重の円で図式化しています。

 円のいちばん中心部が「重要な他者」といわれる関係で、家族や恋人、パートナー、親友などを表します。

 職場の人間関係はというと、円のいちばん外側の第3層にあたります。仕事を進めるうえで支障がなければ、お互いのことをそんなに詳しく知らなくても問題ないという関係です。

 家族など親しい間柄であれば、それぞれの「領域」についての知識を、ある程度共有している場合もあります。

 しかし、職場でも同じ事を期待するのは不適切だと思います。

 職場は、決して自分のすべてをさらけ出すべき場所でもなければ、相手の全てを理解すべき場所でもありません。

 成熟した、健康な人間関係のために必要なのは、たとえ家族のような親しい間柄であっても、お互いの「領域」を尊重することです。

相手の「領域」については決めつけない。自分の「領域」については自分で責任をとる。それが「領域」の尊重の基本です。