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医療・介護 大転換

なぜ「痴呆症」と呼ぶのをやめたことがよかったのか

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第44回】 2015年12月9日
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 かつて「痴呆症」「痴呆」と言われてきた言葉を政府が「認知症」と言い換えたのが2004年。まだ10年しか経っていない。だが、瞬く間に浸透し、認知症への見方が大きく変わりつつある。

言葉の持つイメージが「偏見」につながる

 「痴」とは「愚かなこと」であり「呆」も「愚か」「鈍い」「のろい」で、人間としてまるごと否定されたような表現だった。上から目線の医療用語をそのまま使っていた。尊厳を謳う介護保険の時代にふさわしくないと、言い換えはすんなり決まった。

 言葉の用法によってその内容は随分変わってしまう。とりわけ日本語は、ひとつひとつの漢字が意味を持つ表意文字。語感から受ける印象が強い。

 介護や医療の分野では、こうした言葉について違和感を抱くようなことがまだまだ多い。もともと、「お上」からの授かり、あるいは医師など特別の専門家からの「有難いこと」と言う意識が強かったことも影響している。受け手の人たちに、対等意識がなく、こなれない専門用語を鵜呑みにしがちであった。

 だが、名は体を表す。どんな分野でも、きちんと中身を適確に著す用語は基本のキであるはずだ。

なぜ「介護予防」を強調するのか

 介護保険の利用者が増えていく一方なのに、財源が追い付かない状態を乗り切るため、国が打ち出したのが軽度者への介護サービス縮減策だ。併せて、できるだけ重度にならないようにと「介護予防」のアピールに力を入れている。

 このところ、至る所に「介護予防」と言う言葉が溢れてきた。

 現行制度でも、最も軽度の要支援1と2の高齢者へのサービスは「介護予防・訪問介護」「介護予防・通所介護」などと表記されている。要支援の人たちは、介護予防のサービスを使うことで、予防になるのだから、本格的な介護保険利用者にならないようにしましょう、ということだ。

 また、今年の4月から始まった「新しい総合事業」でも「介護予防」が頻出している。

 新しい総合事業は、要支援者を国の介護保険制度から外していく長期プランの第1弾。要介護認定作業が不要な地方の市町村事業へと移し、介護保険の費用を少しでも削減しよういうのが狙い。まず、訪問介護と通所介護を対象に、今後3年の間に全国で全面移行する。

 要支援者が新しく受けられるサービスとして「介護予防・生活支援サービス事業」を設け、さらに自立高齢者も受けられるサービスとして「一般介護予防事業」を作るという2本立ての構成である。そのどちらにも「介護予防」の言葉が念仏のように入っている。区別がつき難く、サービス受ける高齢者にはちんぷんかんぷんだろう。

 それだけ、「介護予防」を強調したいのである。つまり、あくまでも「予防」なのだから、十分な介護サービスでなくてもいいのです、プロの仕事ではありません、この程度で足りるのです、と言外に伝えたいわけだ。

 では、そもそも「介護予防」とはどういうことなのか。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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