「質より量」のイメージがついてしまっていた広島のカキ。そんな現状を打破するべく、広島ではカキのブランド力を向上させ、海外へ進出する機運が高まっている。
2013年、広島県は生産者、流通、加工業者と「広島かき協議会」を発足。生産から流通まで一貫した品質管理強化の取り組み、ブランド力向上のための具体的な立案と対策を行うことになった。
まず行ったのは、品質管理の強化だった。もともと広島県のカキへの管理はかなり厳しく設定されているが、一大産地であるぶん、一部たまに品質が悪いものが入っていたことによって、イメージダウンにつながることもあったため、「全体的な底上げ」が必要だった。
広島県水産課の前田克明さんは「生産、加工、すべての現場において『安心安全』の担保が徹底していなければ、オイスターバーなどでの取り扱いを懸念されてしまいます。そもそも出荷の基準が主力である『加熱』前提だったため、まずは生食にも対応した基準を設けることになりました」と語る。
協議会では、広島県立水産海洋技術センターによる温度、塩分濃度、経過時間がカキに及ぼす影響とデータにより開発した「生カキ(むき身)の鮮度保持技術」などを盛り込んだ、生産から流通まで一貫した「品質管理マニュアル」を策定。これに基づいた点検、評価の仕組みを導入し、品質の高いカキの出荷を推進した。
広島ならではの技術で
特色ある「三倍体カキ」が誕生
さらに、広島県が開発した技術がブランド力向上に大きく貢献した。広島県水産海洋技術センターがバイオテクノロジー技術を応用して開発した「三倍体カキ」である。
カキは、夏に産卵した後に痩せて、また次の産卵に向けて栄養を蓄える。よって夏場は身が痩せた「水がき」の状態になってしまう。三倍体カキは、通常二倍体のカキを、品種改良した「産卵しないカキ」。産卵に費やすエネルギーが、身に入るため通年身入りがよく、肉厚な状態を維持できるのだ。
昭和60年から研究を開始し、全国に先駆けて三倍体幼生の大量生産・付着の技術開発に成功。これを受けて広島県栽培漁業センターに三倍体カキ種苗の生産施設を整備し、大量生産体制を確立した。広島県で生産された三倍体カキは「かき小町」として広島県漁業協同組合連合会が商標登録し、広島県だけでしか生産できない。
さらに、「生食用殻つきカキ」の需要に対応するため、シングルシード方式への対応技術も開発。さまざまな試行錯誤の結果、カキ殻の粉砕片に直接幼生を付着させて育成することで、殻に深みのある三倍体シングルシードを生産した。生産者がこの種苗を利用し、創意工夫を重ねることで、特色あるカキが生産されるようになった。
これによって、「特色に欠ける」と言われていた、たんなる「広島県のカキ」が劇的に変貌を遂げはじめた。生産者の個性あふれるさまざまな、新生「ブランドかき」が登場し始めたのだ。
そうなれば「広島の生食かき」の売り込みである。広島県の定める品質管理の基準を満たす生産者こだわりの身入りのよいカキを「広島トップかき」、さらにその中からさらに厳しい生産規格や鮮度保持力法で出荷される商品を「広島プレミアムトップかき」と命名して、東京、広島での販売促進をスタートした。