1000人以上の経営者へのインタビューを15年近く続けてきた藤沢久美氏は、「求められるリーダーシップが変化している」という。
それをひと言で表したのが、最新刊のタイトルでもある『最高のリーダーは何もしない』だ。

前回、消費者の価値観やニーズの多様化、変化のスピードを背景に、リーダーの理想像が変化していることを述べた。
では、そうした時代、メンバー(部下)に何を求め、どう導けばいいのだろうか?

▼連載 第1回▼
「頼れるボス猿」から「内向的な小心者」へ…
優秀なリーダーの条件が変わった!

▼連載 第2回▼
「指示しない職場」で業績が伸びている

▼連載 第3回▼
「動き回るリーダー」ほど仕事がおそい!?

「命令を遂行する部隊」から
「自分で判断する仲間」へ

企業を成長させるためにメンバー(社員・スタッフ)の力が重要なのは言うまでもありません。ニーズが多様化、スピード化した時代、「命令を遂行する部隊」ではなく、「自分で判断する仲間」が必要です。

現場に求められる対応スピードが上がっている事例を紹介しましょう。
ありとあらゆるものにセンサーや通信デバイスが搭載され、モノ同士が情報交換をするIoT(Internet of Things―モノのインターネット)というトレンドが最近話題になっています。

この動きは、ドイツが数年前に「インダストリー4.0」という国家プロジェクトを掲げ、ものづくりの分業体制や産業構造にITを取り入れた革新を起こそうとしたことからはじまりました。
その結果、個別対応の商品を量産品並みのスピードとコストで生産するのがあたり前になりつつあります。素材メーカーでさえも、最終顧客の嗜好をいち早く捉えて開発していかなくては、市場のスピードについていけないと言われるほどです。

そんな変化の真っただ中にあるヨーロッパの製造業の方から聞いた話です。
イギリスのある補聴器メーカーでは、オーダーメイドの補聴器を量産型のものと同程度のスピードと価格で製造・販売する取り組みをはじめました。具体的には、各店舗に設置された3Dスキャナを使って顧客の耳の形状を測定し、ぴったりとフィットする補聴器を3Dプリンタで数分のうちにつくってしまうのだそうです。

これまでは、既製品の形状が耳に合わず不便な思いをしていた人も多かったのですが、技術の進歩によって、そんな顧客の悩みが解決されると同時に、スピードと価格の壁も崩されていったという事例です。

しかし、このサービスで注目すべきは、じつはテクノロジーではなく人です。というのも、耳の形状を測る計測担当者のこだわり度が、製品の質を大きく左右するからです。
つまり、計測担当者がこの仕事にどれほど真剣に取り組み、顧客を思うかにかかっているのです。

サービスもものづくりも、ますます個別対応が必要とされるようになってきたいま、それに対応する人・組織の質的向上が求められています。
リーダーの指示やマニュアルに従って忠実に動く人ではなく、リーダーの「ビジョン」に基づき、自ら考え行動できるメンバーが、仕事の成否を左右する時代に入ったのです。

これまでは、みんな同じように仕事ができるよう、組織独自の「型」を身につけさせるのがリーダーの仕事でした。「これさえ覚えておけば、どんな人でもある程度までならば結果を出せる」という水準に育成すれば、なんとかなる環境だったわけです。

しかし、消費者のニーズが1分1秒で変わっていくような世界では、新たな課題を自分で発見し、その解決策を自ら考え、実行できる人材を育てる必要があります。リーダーが個別のニーズや方法論について、1つずつ部下に教えていては間に合わないのです。