ビジョンなきリーダーの
末路としての「ハコモノ」

また、社長直轄の大胆なプロジェクトのリーダーとして任命されたものの、集められたメンバーたちにやる気がなかったり、もっとひどいときには、リーダーに反感を持っていたりということもあり得ます

大企業が立ち上げるプロジェクトや、税金を使って開催される予算消化型のイベントなどでは、そうした残念なことがときおり起きてしまいます。

とにかく言われたとおりに体裁だけ整えるのが当面の目標となってしまい、「お金と時間を使ってそのプロジェクトを遂行することに、どんな意味があるのか?」「誰をどのように幸せにするプロジェクトなのか?」ということが意識されないまま、淡々と予定が進められていく。こうして買い手不在の商品や集客もままならないイベントが生まれ、世の中に何ももたらさない、それどころか、公共の利益を損なうという結果に終わっています。

その最たるものが、行政における「ハコモノ」です。また、つくったけれど使われず、維持費だけがかさむという無駄遣いのプロジェクトは、建築物のように目に見えるもの以外にも無数にあるでしょう。

これは、国や自治体や関連企業が悪いという以前に、プロジェクトに関わるすべてのリーダーが、ビジョンを持っていなかったことに大きな問題があるのです。

人口が増え、経済が拡大していたころの日本であれば、こうしたビジョンなきリーダーが跋扈していようと、なんとか経済は回ってきました。しかし、人口減少が進むいまの日本では、かつての拡大型経済の方法は機能しません。ビジョン型リーダーシップを発揮した取り組みに変えなければ、プロジェクトそのものを実施する財源すら出せなくなりつつあるのが現実です。

(第19回へつづく・3月9日公開予定)

藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
2007年、ダボス会議(世界経済フォーラム主宰)「ヤング・グローバル・リーダー」、翌年には「グローバル・アジェンダ・カウンシル」メンバーに選出され、世界の首脳・経営者とも交流する機会を得ている。
テレビ番組「21世紀ビジネス塾」(NHK教育)キャスターを経験後、ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」パーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(実業之日本社)、『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』(ダイヤモンド社)など多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kumi.fujisawa.official