公的年金の役割は「長生きしすぎることへの保険」と考えられるべきことを前回述べた。そう考えなければ、「効率の悪い公的年金がなぜ必要なのか」という問いに答えることができない。

 そうであれば、その考えを実際の改革に反映すべきだ。では、さまざまな改革提案はそうなっているだろうか?なっていないと言わざるをえない。

「年金は高齢者の生活を一般に支援するためのものだ」という考えが強い。たとえば、民主党の7万円年金(民主党が前回の衆議員選挙でマニフェストに謳った月額7万円の最低保障年金のこと)はその典型だ。これは、年金と生活保護を混同した考えである。なぜ高齢者だけに、所得制約もなく、一定の水準保障が必要なのかは、正当化できる理由がない。

 有権者中の高齢者の比率は上昇し、しかも、高齢者は比較的熱心な投票者である。だから、選挙の票獲得の観点から上記のようなバイアスが生じてしまうのは、ある意味では必然であろう。しかし、年金制度がそうした考慮だけで左右されるのは、望ましいことではない。

マクロスライドではなく、
支給開始年齢の引き上げが必要

 マクロスライドは、受給者の増加と保険料支払い者の減少に対応するために、給付を削減する措置である。これは、受給者の年齢による差をつけずに、一様に削減しようというものだ。

 しかし、「長生きへの保険」という観点に立てば、違う対応になる。この観点から必要とされるのは、支給開始年齢を引き上げて、超高齢者を重点に給付することである。平均余命が長くなり、労働可能期間が長くなっているのだから、こうした対応が必要である。75歳程度までの引き上げが考えられてもよいだろう。

 仮にそうした対応ができれば、必要給付額は大きく削減することができる。

 2008年の人口構成で見ると、75歳以上人口は1322万人であり、65歳以上人口2822万人の46.9%になる。したがって、単純な人口比例で考えれば、受給開始年齢を75歳に引き上げることによって年金給付額は半分以下に削減することができるわけだ。こうした削減ができれば、厚生年金の財政問題はほぼ消滅する。