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長内 厚のエレキの深層

シャープと鴻海の駆け引きをめぐる「3大疑問」の真相

長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員/ハーバード大学GSAS客員研究員]
【第2回】 2016年2月10日
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産業革新機構から鴻海へ
シャープ支援「綱引き」の行方

鴻海による支援決定が報じられたものの、シャープはなぜか歯切れが悪いままだ。同社の再建の行方はどうなるのか。Photo:ロイター/アフロ

 まるで企業小説のような話である。先週まで、シャープの支援策は政府系ファンドである産業革新機構を中心に話が進んでおり、革新機構による支援でほぼ決まりと目されていた。2月4日の2016年3月期第3四半期決算報告で、何らかの発表があるのではないかとまで言われていた。

 しかし、2月3日の午後あたりから、もしかしたら産業革新機構支援の発表は見送りになるのではないかという話が出始めた。そして2月4日当日、夕方から始まる決算報告直前の正午過ぎ、NHKから「シャープ支援は鴻海で決定」というニュース速報が流れ、当日の夜には鴻海精密工業の郭台銘会長が来日し、翌日の提携交渉に至ったのである。

 土壇場に立たされたシャープの命運は、今後どうなるのか。今回は、シャープに関する直近の動向を踏まえながら、世間で語られている「3つの疑問」について考察してみよう。それは、(1)鴻海のようなアジア外資による買収は、産業革新機構が指摘するように日本の技術流出につながるのか、(2)なぜシャープは鴻海を選んだのか、そして(3)鴻海を選んだはずなのになぜシャープは歯切れが悪いのか、という3点だ。

 第一に、アジア外資による買収は産業革新機構が指摘するように技術流出につながるのか、という点を考えてみよう。

 産業革新機構もシャープ支援策を発表し、家電産業の国内再編による技術流出防止をメリットとしている。しかし、多かれ少なかれ日本のエレクトロニクス産業は各社とも疲弊しており、国内エレクトロニクス企業同士の再編は、弱者連合にしかならない。日立を中心に東芝、シャープを合わせるとパナソニック規模の大規模な総合家電メーカーが誕生するという話もあるようだが、これは机上の空論に過ぎない。

 仮にこの3社の家電部門を統合するとすれば、事業領域がほぼ同一の3社が1つになるので、各部門、たとえばテレビや冷蔵庫、洗濯機など、製品毎ごとの事業部に必ず余剰人員が出る。そうなれば、リストラは避けなられない。これまでの多くの日本企業の例を見れば、リストラを行えば、優秀な人間から順番に外国企業を含めた様々な会社に散らばってしまう。もちろん、個人に技術がくっついた形でだ。

 しかし、企業はリストラした社員に、「どこに行け」「何をするな」とは言えない。そうすれば、コントロール不可能な技術流出が各所で発生することになる。

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長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員/ハーバード大学GSAS客員研究員]

京都大学大学院修了・博士(経済学)。1997年ソニー株式会社入社後、映像関連機器部門で商品企画、技術企画、事業本部長付商品戦略担当、ソニーユニバーシティ研究生などを歴任。その後、神戸大学経済経営研究所准教授を経て2011年より早稲田大学ビジネススクール准教授。2016年より現職。早稲田大学IT戦略研究所研究員・早稲田大学台湾研究所研究員を兼務。組織学会評議員(広報委員会担当)、ハウス食品グループ本社株式会社中央研究所顧問、(財)交流協会貿易経済部日台ビジネスアライアンス委員。(長内研究室ホームページ:www.f.waseda.jp/osanaia/

 


長内 厚のエレキの深層

グローバル競争や異業種参入が激化するなか、従来の日本型モノづくりに限界が見え始めたエレキ産業は、今まさに岐路に立たされている。同じエレキ企業であっても、ビジネスモデルの違いによって、経営面で大きな明暗が分かれるケースも見られる。日本のエレキ産業は新たな時代を生き延び、再び世界の頂点を目指すことができるのか。電機業界分析の第一人者である著者が、毎回旬のテーマを解説しながら、独自の視点から「エレキの深層」に迫る。

「長内 厚のエレキの深層」

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