世界約半分の人口が中国国内で大移動
「大国の特権」を感じる春節の風景

春節のなか、秋葉原で見た中国人観光客の言動からは、民族主義的な雰囲気がひしひしと感じられた

 先週末、私は約2週間に及んだ一時帰国を経て、北京に戻ってきた。北京首都国際空港第3ターミナル(主に国際線用)から空港エクスプレスに乗り込み、約25分で北京市街の北東部に位置する三元橋駅に着いた。そこから地下鉄10号線に乗り換えると、土曜日・お昼という時間帯を考慮しても、「乗客少ないな」という印象を持った。がら空きといってもいいくらいだ。

 次の瞬間、はっとして、我に返った。

 中国はまだ春節(旧正月、2016年は2月8日)の期間中で、多くの北京住民たちはまだ帰省中であったのだ。最寄りの駅に到着後、昼食を取るべくうろうろしたが、ほとんどのレストランや食堂は営業していなかった。入り口の張り紙に目をやってみると、多くが現在は春節休みで、2月15日(月曜日)から営業するとのことであった。あたりを見回しても、日常に比べて、歩行者や自動車の数が極端に少ないことに改めて気づかされた。

 中国社会には「春運」(チュンユン)という言葉がある。文字通りに直訳すると「春節運輸」で、春節期間中、およびその前後に大規模に起こる交通運輸状況を指す。私はこれを「毎年恒例の民族大移動」と自己解釈してきた。近年の「春運」期間中(40日間)の移動状況を振り返って見ると、2006年に初めてのべ20億人、2012年に初めてのべ30億人を突破し、2014年にのべ36億人、昨年はのべ28億人、今年はのべ29億人強になる見込みと言われている。世界約半分の人口が、中国の大地のなかで大移動を展開するのである。

 今年の春運は1月24日に始まって、3月3日に終わる。これは私の個人的認識であるが、個人差はあれ、春節を挟んだ約1ヵ月の間、中国の人々はお正月気分に浸る傾向にある。仕事をしていても気分はお正月という感じであるようだ。アメリカ人がサンクスギビング(感謝祭)である11月の第4木曜日前からホリデー気分に入り、そのままの状態でクリスマス、そしてハッピーニューイヤーを迎える“ノリ”に近いのかもしれない。

 余談になるが、日本で約18年、中国で約10年、米国で約3年生活した経験からすると、昨今において“米中二大国”時代を形成するアメリカ人と中国人は、「年間のうち、土日以外に1ヵ月くらいはゆっくり休まないとやってられない」という潜在的なマインドを共有しているような気がする。「大国の特権」などと言っては極端すぎるだろうか。いずれにせよ、そこには、お世辞にも休むことを良しとしないように映る日本国民にはない“余裕”というか、余暇の精神が垣間見える。1人の日本人として、そんな光景を前に、そんな人々を横目に、ついつい色々考えこんでしまう今日この頃である。

 前置きが若干長くなってしまった。通常は中国共産党をめぐる政治、経済、外交といった動向をケースに中国民主化問題を考える本連載であるが、今回は春節番外編として、春運の前半期が終了した今現在、私自身が日本の街角で垣間見た中国人観光客の素顔や行動をケースにしつつ、「民族性」という視角から中国民主化研究という本連載の核心的テーマに迫ってみたい。いつもよりもリラックスした心境と柔らかいスタンスで、換言すれば、お正月のノリでお読みいただければ幸いである。