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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

春節の秋葉原で見て考えた“中華思想”と“民族主義”

加藤嘉一
【第70回】 2016年2月16日
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世界約半分の人口が中国国内で大移動
「大国の特権」を感じる春節の風景

春節のなか、秋葉原で見た中国人観光客の言動からは、民族主義的な雰囲気がひしひしと感じられた

 先週末、私は約2週間に及んだ一時帰国を経て、北京に戻ってきた。北京首都国際空港第3ターミナル(主に国際線用)から空港エクスプレスに乗り込み、約25分で北京市街の北東部に位置する三元橋駅に着いた。そこから地下鉄10号線に乗り換えると、土曜日・お昼という時間帯を考慮しても、「乗客少ないな」という印象を持った。がら空きといってもいいくらいだ。

 次の瞬間、はっとして、我に返った。

 中国はまだ春節(旧正月、2016年は2月8日)の期間中で、多くの北京住民たちはまだ帰省中であったのだ。最寄りの駅に到着後、昼食を取るべくうろうろしたが、ほとんどのレストランや食堂は営業していなかった。入り口の張り紙に目をやってみると、多くが現在は春節休みで、2月15日(月曜日)から営業するとのことであった。あたりを見回しても、日常に比べて、歩行者や自動車の数が極端に少ないことに改めて気づかされた。

 中国社会には「春運」(チュンユン)という言葉がある。文字通りに直訳すると「春節運輸」で、春節期間中、およびその前後に大規模に起こる交通運輸状況を指す。私はこれを「毎年恒例の民族大移動」と自己解釈してきた。近年の「春運」期間中(40日間)の移動状況を振り返って見ると、2006年に初めてのべ20億人、2012年に初めてのべ30億人を突破し、2014年にのべ36億人、昨年はのべ28億人、今年はのべ29億人強になる見込みと言われている。世界約半分の人口が、中国の大地のなかで大移動を展開するのである。

 今年の春運は1月24日に始まって、3月3日に終わる。これは私の個人的認識であるが、個人差はあれ、春節を挟んだ約1ヵ月の間、中国の人々はお正月気分に浸る傾向にある。仕事をしていても気分はお正月という感じであるようだ。アメリカ人がサンクスギビング(感謝祭)である11月の第4木曜日前からホリデー気分に入り、そのままの状態でクリスマス、そしてハッピーニューイヤーを迎える“ノリ”に近いのかもしれない。

 余談になるが、日本で約18年、中国で約10年、米国で約3年生活した経験からすると、昨今において“米中二大国”時代を形成するアメリカ人と中国人は、「年間のうち、土日以外に1ヵ月くらいはゆっくり休まないとやってられない」という潜在的なマインドを共有しているような気がする。「大国の特権」などと言っては極端すぎるだろうか。いずれにせよ、そこには、お世辞にも休むことを良しとしないように映る日本国民にはない“余裕”というか、余暇の精神が垣間見える。1人の日本人として、そんな光景を前に、そんな人々を横目に、ついつい色々考えこんでしまう今日この頃である。

 前置きが若干長くなってしまった。通常は中国共産党をめぐる政治、経済、外交といった動向をケースに中国民主化問題を考える本連載であるが、今回は春節番外編として、春運の前半期が終了した今現在、私自身が日本の街角で垣間見た中国人観光客の素顔や行動をケースにしつつ、「民族性」という視角から中国民主化研究という本連載の核心的テーマに迫ってみたい。いつもよりもリラックスした心境と柔らかいスタンスで、換言すれば、お正月のノリでお読みいただければ幸いである。 

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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