6月18日、上海の中心地区にある蘇寧電器の「浦東第一店」1階に、「MUSICVOX(中国語名「音楽箱」)1号店」がオープンした。ラオックスが秋葉原で展開する楽器店の中国1号店である。
同店舗は、売り場面積700平米。エレキギター、アンプ、エフェクター、アコースティックギター、ドラムス、電子ピアノなどがずらりと陳列され、ヤマハやローランドなど150種以上の一流ブランド、2000アイテムが並ぶ。
そして、店舗中央のガラスケースの中に高々と掲げられているのは、グレコ・ゼマイティスの6万元(約78万円、1元=約13円)を超えるベースギターだ。ダニー・オブライエンの彫金がもたらす芸術性の高みに、日本の神田商会の技術が実用性を与え、エリック・クラプトンも愛用した「プロミュージシャン向けの逸品」である。
誰もが「軽音楽ビジネスなど成り立つわけがない…」と、外資系企業の進出を遠ざけてきた上海で、蘇寧電器がこの新しい専門業態を立ち上げたことは今ちょっとした話題をもたらしている。ラオックスといえば09年、蘇寧電器が筆頭株主となりその傘下に入ったが、何を隠そう、この「楽器の販売」こそが、買収後の蘇寧電器が「家電」の次に仕掛ける第2弾のビジネスなのである。
海賊版CDの存在が
ミュージシャンの育成を阻む
ではなぜ、中国で軽音楽がビジネスにならないと言われているのだろうか。
それは、「海賊版CD」の存在に起因すると言える。海賊版CDがレコード会社を成立させることを難しくし、ミュージシャンの育成を妨げ、ひいてはLM(ライトミュージック=軽音楽)楽器が売れない、という悪循環をもたらしていたためである。上海の街で、ギターを背負って歩く若者が見られないのも、まさにそのせいだと言える。
上海のユーザーが求めていたものも、ピアノ、バイオリンなどクラシックを中心とした楽器だった。むしろ軽音楽についてはほとんどその市場は顕在化していなかったし、ロック文化がほとんど定着を見せない上海市場においては、日本のような「軽音楽のための楽器市場」はむしろ育たない、というのがこれまでの定説でもあったのだ。言い換えれば「最もカネにならないビジネスの1つ」と認識されていたのである。