ひとたび当たれば多大な利益を見込める「萌えビジネス」。商品のパッケージを美少女イラストで飾ったり、アニメと提携して町おこしを図るなど、いまやすっかりビジネスの手法の1つとして定着している。しかし、成功例が目立つ一方で、失敗したケースも後をたたない。最近トヨタが発表したプリガープロジェクトを例に「萌えビジネス」成否の差を検証していこう。(文/西山大樹[清談社])
トヨタの萌えビジネス「プリガー」
オタクたちにはほとんど響かず
今年の1月、トヨタ自動車はこれまでにない試みを発表した。それは新型プリウスのパーツを美少女で擬人化した「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS(通称・プリガー)」と呼ばれるプロジェクトだ。その主な狙いは2点。「プリウスの性能や魅力のアピール」と「若年層に車への興味を持ってもらう」ことだ。
このプロジェクトにおけるトヨタの施策は多岐に渡る。40点にも及ぶプリウスの部品や機能を美少女で擬人化し、イラストやキャラ設定を製作。そして、主だった10人の美少女の声には、女性アイドル声優を起用した。さらにはイメージソングの作曲を、音声合成ソフト「ボーカロイド(略称・ボカロ)」の人気作曲家に依頼したのだ。
ターゲットは「若年層」と謳っているものの、これらの施策からすると明らかに「美少女萌えオタク」「声優オタク」「ボカロファン」を狙った布陣だと分かる。だが、発表から2ヵ月が過ぎた今、その試みはほぼ失敗に終わっている。プリガーはオタク界隈において、まったく話題にのぼっていないのだ。
実は、そもそもプリガープロジェクトの発表当初から、主なアキバ系情報サイトや、2ちゃんねる、2ちゃんねるのまとめブログなどは、ほぼ記事にすらしていない。声優のファンやボカロ作曲家のファンたちが少し話題にしていただけで、プリガーは、オタクたちにはまったく響かなかったのだ。
プリガープロジェクトは失敗?
原因は「萌え」に対する勉強不足
なぜプリガーは、これほどまでにオタクに人気がないのか。一般にキャラクタービジネスにおいて「オタク界隈での反響」を知るには、「二次創作の勢い」がひとつの指針となる。分かりやすい例としては、人気イラスト投稿サイト「pixiv」におけるイラストの投稿数がある。
トヨタは今回、ボカロファンをターゲットに見込んでいるが、カリスマ的萌えキャラ「初音ミク」を例にすると、彼女はpixivにおいて、発売から1ヵ月で268作、2ヵ月で1009作、現在では34万作を越えるイラストが投稿されている。だが、プリガーは発表からちょうど2ヵ月経った3月18日現在でも、たったの6作。しかも、そのうち2作はデザイン担当者のイラストなので、二次創作といえるのは実質4作に過ぎない。