「ブラック企業」といった言葉がすっかり定着した昨今。不条理な精神論で社員を縛り付ける体育会系マネジメントの限界が浮き彫りになった格好だ。そんななか、「アンチ体育会系」マネジメントを提唱する『フラッシュ』の敏腕元編集長に話を聞いた。

体育会系企業が蔓延しているせいで
日本社会が疲弊している

 厚生労働省の発表によると、全国の労働局などに寄せられる労働相談件数はここ数年100万件を超えている。2016年に入ってからも、電気機器製造大手のイビデンの男性社員が上司のパワハラや長時間労働が原因で自殺し、遺族が損害賠償を請求するなど、ブラック企業にまつわる話題には事欠かない。

高度経済成長期を終え、「成熟期」に入った日本では、かつて成功した体育会系組織のあり方では立ち行かなくなっている

 企業理念で「24時間365日死ぬまで働け」と謳ったワタミが、従業員を過労自殺に追い込んだ例からも分かるように、“ブラック企業”では不条理な精神論がまかり通り、「命令」を下す上の人間には逆らえないケースが非常に多い。会社のルールや上の命令には絶対服従という、こうした「体育会系」組織の体質に警鐘を鳴らすのは、『部下をつぶさない! アンチ体育会系リーダー術』(dZERO刊)の著者である鈴木紀夫氏だ。

「体育会系の縦社会では、往々にして『上の言うことは絶対』といった土壌ができあがっています。そうして尻を叩いて社員を酷使することで短期的な生産性は上がりますが、下の人間はリーダーや会社の業績を上げるためだけの“コマ”になってしまう可能性が高いのです」

 そうした体質の組織が「ブラック企業」と指摘され社会問題化している、と鈴木氏。ただし、完全縦社会の体育会系組織は昔から日本に存在していたし、むしろその体質こそが日本企業の特徴でもあった。ところが、高度経済成長期やバブル景気が終わりを迎え、「成熟期」に入った日本ではすでに、体育会系組織は時代にそぐわなくなってきているのだ。

「経済が右肩上がりのときは、体育会系組織で多少辛い思いをしても多くの人はその会社で働き続けることで給与も上がり、生活は豊かになっていきました。しかし、現代の社会では以前のような急成長は望めませんし、従来の終身雇用制度そのものも崩れています。十分な保障もないまま体育会の体質だけが残った結果、無理が生じブラック企業問題などが浮上しているのでしょう。こうした組織の下だと、すぐに結果が出せない“コマ”は潰される。それが一番の問題です。このような体育会系ブラック企業が蔓延することが、ひいては日本社会の疲弊につながるのではないのでしょうか」

 鈴木氏はブラック企業やパワハラ問題が表面化する以前から、体育会系組織のあり方に疑問をもち、その逆張りのスタンスで部下を育成してきた。では、自身の経験から得たという「アンチ体育会系のリーダー術」とはどのようなものなのだろうか。