上海の徐匯区にある日本風居酒屋を訪れた。大漁旗が掲げられた店内には、短冊に書かれたメニューが壁一面に広がり、70年代のフォークソングが流れる。東京の下町の居酒屋をそのまま上海に持ってきたかのような空間だ。
この店の経営者は上海人で、お客さんも圧倒的に中国人が多い。かつて、上海の居酒屋といえば日本人駐在員のたまり場だったが、今では中国人プロデュースのこだわりの店で、地元の中国人が徳利を傾け居酒屋文化を楽しんでいる。
地下鉄2号線静安寺駅の百貨店では、特設コーナーを設けて“日本発のアイディア商品”が売られていた。かつて、こうした商品は上海在住の日本人が好んで消費していたが、今では地元の主婦らが手に取るようになった。
日本語学習も新たな世代を中心に熱を帯びる。筆者も「日本語、教えて」と言われることがにわかに増えた。
こんなこともあった。街中を歩いていると、たまたま中国人の女性営業社員のビラ配りに出くわした。そのうちのひとりが筆者を日本人だと見抜いた瞬間、こう奇声をあげたのである。
「わーっ、日本人なんですね~、私、日本語勉強中なんですぅ」
隣の女性社員が赤面しながらすかさず解説を加えた。
「この子は習いたての日本語をしゃべりたくてしょうがないんです。仕事中もわけのわからない日本語をひとりでつぶやいているんですから」
上海にはかつてから日本ファンも少なくなかったが、たとえ日本に関心があっても口にするのは憚られたものだった。最近は世代交代もあり、だいぶ自由な空気になったようだ。「日本が好き」「日本はいい」と、堂々と人前で言えるような雰囲気が醸成されつつある。