江崎グリコとロッテ、どっちの会社が高いか?

さらに、マーケット・アプローチにはもう1つ根本的な欠陥がある。それは、比較対象が存在しないとき、あるいは、参考となる取引事例が存在しないときに、まったく機能しなくなるということだ。

以前、『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)という本を書いたことがあるが、パンダの値段というのはマーケット・アプローチが役に立たない状況の典型だ。

オープンな市場で盛んに売買されているわけではないパンダという動物には、いったいいくらの価値があるだろう?

日中友好の証として日本が中国に支払った額は、まともに参考にしていい金額だろうか? あるいは、コアラとかペンギンといった、ほかの動物の価格は果たして参考になるだろうか?

パンダの値段はともかくとして、ビジネスの世界で問題になるのが、会社の値段である。これを専門用語で企業価値という。上場企業であれば、その株式が市場で取引されているので、会社の値段は一応わかる(もちろん、その価格が適正なものかどうかは別の話だが)。たとえば、誰もが知っている江崎グリコの場合、会社の値段は約4000億円だ(2016年3月現在)。

では、同じく誰もが知っているロッテの場合はどうだろうか? 非上場企業であるロッテの場合は少し事情が異なってくる。ロッテは江崎グリコと同業種なので、売上や利益などの規模が同じであれば、両社の価値は同じぐらいなのではないかと類推することはできるだろう。

しかし、まったく新しいビジネスモデルやユニークな収益モデルを持つ会社であれば、類似取引事例にもとづいて価値を割り出すことはできない。また、業界が同じだとしても、それぞれの会社は千差万別なので、一様に比較できないケースも少なくない。