多くの人は「宝くじで3000万円が当たったらお金持ちになれる」と考えている。しかし、ファイナンス的な考え方に立てばわかりとおり、それは誤りである。本当の意味での「価値」をどう考えるべきか? いよいよファイナンス理論の根底にある発想に迫っていく。

年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

なぜ「ヒト→モノ→カネ」の順なのか?

宝くじが当たっても
お金持ちにはなれない

前回確認したとおり、モノの価値はそれが生み出す将来のキャッシュフローの総和で決まる。これがファイナンスの最も基本的かつ重要な考え方だった。

ここで混同しないでほしいのは、価値を決めるのが「キャッシュ(現金)ではなく、キャッシュフロー(お金の流れ)」だという点である。

あなたは「お金持ち」と聞くと、どんな人を想像するだろうか? 人によってイメージはいろいろだが、いちばん一般的なのは「お金をたくさん持っている人」だろう。しかしファイナンス理論では、宝くじを当てて3000万円を所有しているだけの人をお金持ちとは呼ばない。なぜだろうか?

以前の連載でも語ったとおり、ファイナンスは現金を最も価値の低い資産に分類する。なぜなら、現金それ自体は、1円もキャッシュフローをもたらさないからだ。ファイナンスにおける価値はどこまでも「キャッシュフローを生む力があるかどうか」だ。

いくら3000枚の1万円札を神棚の前に置いておこうと、次の日に1枚増えていることはない。あるいは、利率0.03%の1年定期預金に入れても、1年後に9000円というバカバカしい利息がついてくるにすぎない。つまり、現金や預金にはキャッシュフローを生む力がほとんどないのである。もし2016年に導入されたマイナス金利が長引けば、利息どころか元本が減っていくことにもなりかねない。