「リターンを変えずにリスクだけを小さくする道」は存在する――にわかには信じがたいが、これがファイナンス理論の結論だった。一体どういうことなのだろうか? 話題のファイナンス理論入門書『あれか、これか』のなかから紹介していこう。

「損したくない人」のためのノーベル賞の投資理論

タマゴを1つのカゴに盛らない理由――分散効果

「すべてのタマゴを1つのカゴに盛るな」という格言を聞いたことはあるだろうか? これが本当に正しいのかを見てみるため、ルーレットゲームの例を見てみよう。

50%の確率で赤か黒が出るルーレットのゲームで、プレイ料金は1回40万円。ルーレットAは、当たれば100万円だが、はずれたら賞金は0円だ。参加料に対する期待リターンは25%なので、非常に割のいいゲームだ(経済合理性を追求しているカジノでは、こんなギャンブルは実際にはあり得ない)。

とはいえ、50%の確率で40万円を失ってしまうという意味では、やはりハイリスクであることは間違いない。リスク(標準偏差)を計算すると、125%である。

そこであなたは次のような提案をしたとしよう。

「当たったときの賞金は半額の50万円でいい。その代わり、プレイ料金を半額の20万円にしてもらえれば、2回プレイしましょう」

至ってフェアな申し出ではないだろうか。カジノのディーラーも快く受けてくれるだろう。しかし、この取引により、あなたはリターンを変えずにリスクだけを格段に小さくすることができるのだ。

2回連続で当たって100万円を手に入れる確率と、2回連続ではずれて賭け金すべてを失う確率は、それぞれ25%だ。一方、1回だけ当たって50万円を手にする確率は50%になる。

これに基づいてリスクとリターンを計算すると、期待リターンは25%のままだが、リスクだけは88.4%に下がる(計算は省略)。ルーレットAのもともとのリスクは125%だから、大幅なリスク減である。

では、1回のプレイ料金を10万円、賞金を25万円にしてもらい、ゲームの回数を4回に増やすと何が起こるだろうか? そう、期待リターンは25%のまま変わらないが、リスクは62.5%まで下がるのである。

ここからわかるとおり、自分の持ち金を小さく分散させてなるべく多くのゲームに賭けたほうが、期待リターンは25%の状態をキープしつつ、リスクを極限まで減らすことができる。

もしこのようなルーレットゲームが存在すれば、あなたは全財産を細かく分散投資することで、間違いなく財産を1.25倍にしてカジノを後にできるというわけだ。