「幸せ食堂」繁盛記
【第二十七回】 2016年5月17日 野地秩嘉

安くて旨い、感涙の昼定食!
御徒町の気さくな和食店は、
ふぐ料理も出す実力派だった

昼の定食がすばらしい

 テレビのグルメ番組を見ていると、「マスコミ初登場」というテロップが流れることがある。グルメ雑誌の場合なら「本誌初登場」という文句だろうか。

 要するに、「この店はマスコミに出ないんだよ。難関なんだぞ。それなのにをオレ様はこの店を口説いたんだぞ。すごいだろ」という意味だ。

 こういった自己宣伝に走る人のことを昔の人は「柄の取れた肥柄杓(こえびしゃく)」と形容した。転じて、「あまりにバカだから、手がつけられない人」のことをいう。

 ……などと書いてきたけれど、御徒町にある、ふぐ・和食の店「お徳」はマスコミ初登場だ。わたしは「オレさまが口説いたんだぜ」と自慢したいわけではない。あまりに安くておいしい店だから、こういうところこそ、どんどん取材したらどうかと天下に向かって言いたいのである。

 なんといっても昼の定食がすばらしい。たとえば、豚煮込み定食(550円)は豚の肩ロース肉が200グラム、しらたき、長ねぎを煮たもの、ご飯、味噌汁、漬け物がついて、この値段だ。ご飯の大盛りは無料。といっても普通のご飯でも充分に大盛りくらいの量はある。味つけはあっさりとしている。豚肉の質がいいから、ごはんが進む。


 昼の定食でもっともお値打ちなのは、納豆定食(460円)だろう。納豆に青のり、ねぎ、鰹節、玉子の黄身が入っている。味噌汁、ごはん、漬け物がつく。さらに言えば、納豆定食に豚煮込みを半分つけると、とてもぜいたくな定食に変身する。半分量の豚煮込みでも豚肩ロースが100グラムは入っているから、これにビールを1本つけても1000円とちょっとだ。他にも、その日に応じた、たこぶつ、たらこ、いかフライ、さば塩焼き、アジにつけなどさまざまな定食がある。加えて、ウインナーカレーだってある。いずれも、半分の豚煮込みと組み合わせることが可能だ。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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