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トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ
【第8回】 2016年6月14日
著者・コラム紹介バックナンバー
林要 [GROOVE X代表取締役]

波風の立たない組織が、
すでに腐り始めている理由
Pepper元開発リーダーが明かす「0」から「1」を生み出す思考法

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衝突・軋轢を求めている人はいません。誰だって、波風の立たない恵まれた職場環境で働きたいと願っています。しかし、波風の立たない組織は、すでに根っこから腐り始めている。特に、ゼロイチを生み出すためには、最も不適な環境と言ってもいいでしょう。そんな組織にしないためには、どうすればいいのか?トヨタとソフトバンクで世間が注目する「ゼロイチ」のプロジェクトで結果を出してきた、Pepper元開発リーダー・林要さんは、自ら「場を乱すナマズになろう」と考えてきたといいます。どういうことか?その真意を、著作『ゼロイチ』から抜粋してご紹介します。

 

なぜ、ヴェルサイユの鯉はブクブクに太ってしまったか?

 F1でドイツに赴任していたころに、面白い話を聞いたことがあります。
 ヴェルサイユ宮殿の鯉の話です。

 昔、ヴェルサイユ宮殿の庭の池には、美しい鯉がたくさん泳いでいました。そして、貴族たちは、優雅に泳ぐ鯉の姿を楽しんでいました。しかし、あるとき、鳥が鯉を食べるのを目撃した人々は、大事な鯉を守るために防護網を設置。そのほかにも、鯉が安心して泳げる環境にするために、池の中に手を加えていったのです。

 ところが、なぜか鯉が泳がなくなったそうです。いつも岩陰でじっとエサを待つだけ。そして、あっという間に、運動不足でブクブクに太った醜い姿になり果てたのです。昔の優雅な姿を偲んで、「最近の鯉は……」と囁かれていたそうです。

 どうすれば、鯉がかつての美しい姿を取り戻すのだろう?
 人々は、あれこれと試行錯誤。なかなか効果が出なかったのですが、あるとき、ある方法によって劇的に効果が上がったそうです。これが、非常に面白い。

 なんと、鯉の天敵であるナマズを一匹、池に放したのです。すると、その瞬間からナマズを警戒して、鯉が必死で泳ぐようになった。そして、ほどなく、かつての美しい姿を取り戻したのです。人々は鯉を大事に思うがゆえに、環境を整備して天敵を排除したのですが、それが、結果として鯉を醜い姿に変えてしまったのです。鯉が健全で美しくあるためには、天敵の存在が不可欠だったということです。

 これは、人間の組織にも当てはまることではないでしょうか?たとえば、あるベンチャー企業がヒット商品をつくり出して、一定の成功をおさめたとします。すると、その商品を安定的、かつ高品質に供給し続けるために、設備の充実や業務の標準化などが図られます。多くの社員を採用するために、人事制度や福利厚生も充実させるでしょう。そうして環境が整備され、事業も安定するわけです。

 しかし、一方で、多くの場合、”ヴェルサイユの池”のような状況が生まれる反作用も生じます。かつて、創業メンバーがヒット商品を生み出すために、激論をかわしながら、昼夜を問わず必死に働き続けた「企業文化」は影を潜めます。そして、事業を効率的・安定的に進めることが第一義になり、決められたプロセスを遵守することが最重要と考える人々が増え始めます。

 しかも、事業の安定化のプロセスではミスをなくす仕組みづくりに力を注がれるがゆえに、いつの間にか失敗しないことが優秀さの証にさえなってしまう。自然と、失敗するリスクの高いゼロイチにチャレンジする動機も失われていくのです。 

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林要(はやし・かなめ) [GROOVE X代表取締役]

林 要(はやし・かなめ) 1973 年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。 東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1 の開発スタッフに抜擢され渡欧。「ゼロイチ」のアイデアでチームの入賞に貢献する。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当した際に、社内の多様な部門間の調整をしながら、プロジェクトを前に進めるリーダーシップの重要性を痛感。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加し、孫氏自身からリーダーシップをたたき込まれる。 その後、孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012 年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepper は、2015 年6 月に一般発売されると毎月1000 台が即完売する人気を博し、ロボットブームの発端となった。 同年9 月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11 月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。新世代の家庭向けロボットを実現するため、新たなゼロイチへの挑戦を開始した。


トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ

「0」から 「1」を生み出す力を日本企業は失っているのではないか? そんな指摘が盛んにされています。一方、多くのビジネスパーソンが、「ゼロイチを実現したい が、どうしたらいいのか?」と悩んでいらっしゃいます。そこで、トヨタで数々のゼロイチにかかわった後、孫正義氏から誘われて「Pepper」の開発リー ダーを務めた林要さんに、『ゼロイチ』という書籍をまとめていただきました。その一部をご紹介しながら、「会社のなかで“新しいコト”を実現するために意 識すべきエッセンス」を考えてまいります。

「トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ」

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