米国の、米国株で運用する投資信託は、8月半ばまで16週連続で資金が流出している。一方、米国の長期金利は2%台半ばまで低下し、社債など国債以外の債券も利回りは低下傾向にある。大きな原因の一つとして、米国投資家のリスク回避傾向が挙げられている。
長期金利の低下は、中長期的な名目成長率の低下予想が支配的になってきたから──と考えるのが素直な解釈の一つだ。物価上昇率と実質成長率とどちらの下落が大きいのかが問題だが、たぶん「両方」だろう。今後、低成長・低インフレの時代がくるのだとすれば、現在の、あるいはそれよりもさらに低い金利水準が「ニューノーマル」になる可能性は確かにある。加えて、投資家のリスク回避傾向が強化された場合、さらに実質金利が低下しておかしくない。
米国で「投資家の株離れ」が本格的に起こっているのだとすると、直接的には、投資家のリスク回避傾向が強化されたためである可能性が大きい。近年の研究では、投資家は個人としても、集団としても、過去の経験の影響を強く受ける、と考えるものもある。この見方によると、金融危機を経験した投資家は、これを経験していない投資家と比較して、よりリスク回避的に行動するようになると考えられる。
リスク回避の度合いが、どのような刺激によって、どのくらいのスピードで変化するのか、という問題は非常に興味深いが、まだ定説はないようだ。考えてみるに、リスク回避の程度を測定することからしてそうとうに難しい。
仮に、投資家のリスク回避の程度が強化されたのだとすると、同じ利益成長率の予想に対して、株式の益利回り(1株利益を株価で割った利回り)が持つ金利に対する上乗せ幅が上昇するはずだ。この状況は、株価を評価する際のリスクプレミアム(投資家がリスク負担に対して要求する追加的な収益率)がより高くなっていると考えてもいい。現在の米国株が、こうした方向に向かっている可能性は小さくないだろう。