定員割れが続き、収支は赤字に沈んでいるある大学。

 とにかく数を確保したいと、学力には目をつむり学生をかき集めようとしてきた。「受験者を全員入れているわけではない」(幹部)とはいうものの、AO入試も一般入試も合格率は100%に近い。それでも入学定員に届かない。

 高校からの評価も低下し、学校推薦で送り込まれてくる学生の質は、以前とは比べものにならぬほど低下した。人数も大きく減った。

 幹部は周辺地域の高校に足を運び、大学の教育プログラムや就職率をアピールするが、一度定着した評価は覆らない。

 「学生さえ集まれば、収支は好転する」というが、その道筋は見えない。財務はじわじわと悪化し、教育現場の疲労の色も濃くなってきた。

 日本の18歳人口は現在、1992年ピークの6割にまで減り、今後とも緩やかな減少が続く。かたや全国の大学数は92年比5割増である。

 大学を取り巻く環境は激変し、今後さらなる悪化は間違いない。最高学府たる大学は大きく変質し、壊れつつある。

 パート1では、淘汰の大波に襲われる大学の現況を追う。

 パート2では、明らかな供給過剰状態にもがき苦しみながら、生き残りを図る大学の動きをレポートする。

 入口の入試ではAO入試乱発の歪みが顕著になっている。出口の就職では、氷河期の再来を前にしてあの手この手を繰り出し、悪戦苦闘を続ける。

 パート3では、大学から大学院へと目を転じ、難関であるはずの大学院がいとも簡単に入れるものへとなりつつある驚愕の実態を追いかける。マネーロンダリング(資金洗浄)ならぬ最終学歴ロンダリングは、就職はもちろん、婚活、子供のお受験のためにも“活用”されている。

 パート4では、全国私大の財務ランキングを掲載する。財務数字は大学経営の窮迫ぶりを映し出す。個別大学ベースの帰属収支差額比率(企業でいえば経常利益率)を網羅的に明らかにしたのは初の試みである。

 入学定員割れを起こしている大学は全体の4割強、赤字大学も4割近くはある。じつは、こうした大学の経営者の危機感にはかなりのバラつきがある。

 日ごろから先頭に立って再建に取り組む経営者はそう多くはない。現場の危機感をよそに、財務問題について「わたしは専門外なので・・・」と口をつむぐ幹部、「いざとなれば資産を売ればいい」と開き直るトップ幹部も少なからずいた。

 こうした大学の現況に切り込んだ本特集号をぜひ手にとっていただきたい。

(「週刊ダイヤモンド」副編集長 小栗正嗣)