イスラエルは国土の大部分が乾燥地帯にあるにもかかわらず、食糧自給率が90%以上と日本をはるかにしのぐ。その秘密は「キブツ」という農業生産の母体となる協同組合と、ハイテク技術にあった。農業から始まったと言われるイスラエルのハイテクの、通信・防衛等とは異なる一面を紹介する。(執筆協力:正田光)

ハイテク農業を実現するスタートアップ

砂漠から生まれたイスラエルの農業ベンチャー

 イスラエルの農業というと、ネタフィムによる点滴灌漑が有名である。点滴灌漑はプラスチック製パイプに水と液体肥料を通して、要所ごとに空けた穴から点滴する灌漑方法である。この技術は乾燥地帯にあるイスラエルで水のロスを限りなく少なくし、効率よく作物を栽培するために開発されたものである。

 従来の固形肥料では十分に作物に吸収されず、河川に流れ込んで汚染してしまう場合があるが、点滴灌漑による施肥では肥料の無駄や水質汚染を防げるため、日本でも水質汚染を防ぐ意味から導入されつつある。ネタフィム社はヤマハ発動機と手を組み、ディーゼルポンプと点滴灌漑を組み合わせて西アフリカの乾燥地帯での支援も行っている。

 国土の半分以上が砂漠であり、隣国との緊張関係もあるイスラエルにおいては、食糧の確保が死活問題であり、独自の農業技術を発展させてきた。イスラエルの食料自給率は90%以上、年間降水量が平均700ミリ以下、南部では50ミリ以下という過酷な環境を考えると、驚くべきものがある。

 こうした自給率を支える要因は、ハイテク農業を実現しているスタートアップである。そうしたスタートアップへの外国からの投資は、イスラエルはアメリカに次いで二番目に多く、またその影響もありAgriTech(農業テクノロジー)のイノベーションも盛んである。2015年の全世界のAgriTechに対する投資額は合計で46億ドルだったが、イスラエルのAgriTech関連のスタートアップは、そのうちアメリカの23.6億ドルに次ぐ5億5000万ドルの投資を獲得している(AgFunder より)。