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絶滅危惧種なお仕事ガイド

絶滅しても誰も困らないどころか、気づかれない?
黒子に徹する映画技師に見た“職人の誇り”

曲沼美恵 [ライター]
【第6回】 2010年9月16日
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 冷房が効いた倉庫の中には、映写のための機材がずらりと並んでいた。見るからに重そうな35ミリの移動映写機や、広げると、小学校のプールくらいはあるスクリーンなど。それらを解説しながら、映写技師の鈴木直巳さん(45歳)が武道館での忘れられない出来事を語る。

 「階段にさしかかった時でした。80キロの機材を数人がかりで持ち上げたら、突然、鼻血が出てきちゃったことがありまして」

 そ、それは焦ります……。

 「落としたら、大事故になっちゃいますし。手、離すわけにはいかないし」

 しかたがないので、鼻血を流しながら最後まで機材を運びきった。話し方に力が入っていないからか、武勇伝なのに、勇ましいというより、ほほえましく聞こえる。そんな鈴木さんの前職は、保険会社の社員だ。10年前に会社を辞め、父親の経営していた会社を手伝い始めた。

 今はその会社の社長だが、名刺はえらくあっさりとしている。

 「有限会社 鈴木映画」の下に、肩書きなしで、「鈴木直巳」と書いてある。

いまやほとんどの映写が自動化
アルバイトでもできるおシゴトに…

 鈴木映画は出張映写を専門としている会社だ。学校の体育館や公民館、コンサートホール、野外広場など、依頼があればどこへでも出向き、自前の映写機やスクリーン、音響設備で即席の映画館を作る。大規模な映画祭や試写会のイベントにも、映写技師を派遣している。数十人規模から数万人規模の会場まで、その仕事場は幅広い。

 映写技師を取材するのになぜ、鈴木映画に話を聞くかというと、肝心の映画館にはもうすでに、映写技師がいないからだ。

 スクリーン数の8割を占めるシネマコンプレックスでは、映写は自動で制御されている。専門の技師はほとんどおらず、機械を操作するのはたいていアルバイトだ。スタート時にフィルムをセットすれば、あとは自動で巻き戻しまでしてくれる。あるいは、映写室の中は無人でも、コントロール室に人がいれば、すべての映写をボタンひとつで操作できてしまう。

 このごろは、製作費を抑えるために、フィルムではなくデジタル機材で撮影することも多くなった。2009年にハリウッド映画『AVATER(アバター)』がヒットしてからは、2Dから3Dへの動きも急加速し、映写技師ばかりか、映写機そのものが映画館から消えそうな勢いだ。

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曲沼美恵[ライター]

1970年生まれ。大学卒業後、日本経済新聞社に入社。2002年からフリーに。近年はビジネス誌やウェブサイトで、ルポルタージュやインタビュー、コラム等を執筆。近著に『メディア・モンスター:誰が黒川紀章を殺したのか?』(草思社)がある。仕事に関する情報はブログでも紹介中。「ニュース」より「人」に興味あり。

 


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「もう食えないかも」「このままだと絶滅」と言われる産業に従事する人々のなかにも、実は意外にしぶとく生きている人たちがいる。日本一でもなく、世界一でもない、「最後の下駄屋になること」を目指して働く職業や人々を追いかけ、「崖っぷちの中に見える希望」を探る。

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