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「考える」は技術
【第1回】 2016年7月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
グル マドハヴァン,須川 綾子

交通渋滞を「新しい道路を作らずに」解決する方法って?IBMに学ぶ最高の「考える技術」

夏休みが近づいてきた。世に言う「行楽シーズン」だが、そんな楽しい休暇の話と必ずセットで語られるのが、交通渋滞だ。先日も高速道路各社がお盆(8月6日~16日)の渋滞予測を発表した。どうやら、下りは8月13日、上りは14日にピークを迎えるようだ。
交通渋滞と聞いて喜ぶ人はいないだろう。ではこの問題、いったいどうすれば解消できるのだろう。日本に限らず、よくある対処法は、「道路を増やす(バイパスをつくる)」だが、果たしてそれは最適な解決策なのだろうか?
このほど刊行された『「考える」は技術』によると、どうやら「つくる」ばかりが「答え」ではないという。IBMのエンジニアたちがたどり着いた解決策を振り返ると、さまざまな問題解決に応用できる思考の「型」が見えてきた。

ストックホルムを救った「畑違い」のコンサルタント

 2000年代初頭、ストックホルムの交通渋滞は手に負えなくなりつつあった。

 通勤時間はとくにひどく、人々の不満が高まっていた。毎日この時間帯になると、スウェーデンの首都の生産性は極端に落ちこんだ。すぐに考えられる解決法は新たな橋の建設だった。これは過去のプロジェクトですでに効果が実証されている戦略であり、すでに何十という橋があるストックホルムは「北のベニス」とも呼ばれていた。

 ところがこのとき、ストックホルムの都市計画担当者たちは思案した。そして意外なコンサルタントを招き入れた。IBMのエンジニアたちだ。

 IBMは市の交通渋滞解消という課題を与えられ、それを道路の「バイパス手術」というよりは、緊急避難作戦に近いものと捉えた。まったく未経験の難題ではあったが、IBMのチームは手始めに市内各地に交通状況を観測するセンサーを設置した。43万台の通信中継器を配置してデータを集め、85万枚の画像を入手した。IBMは道路システム上の主要な接続点はもちろん、それとは関係なさそうに見える渋滞地域のすべてについて定量的な分析を行い、システム全体をモデル化した。この分析結果を受けて、ストックホルムの担当者たちは新しい橋や道をつくるのは得策ではないという結論に達した。そのかわり取るべき対策は、混雑する時間帯に橋や幹線道路を利用する市民に課金することだった

 通行料制度の成果は目を見張るものがあった。2006年にこの新しい制度が試験的に導入されたのだが、その期間のストックホルムの交通渋滞は20〜25パーセントも緩和された。通勤に要する時間は平均して3分の2以下に短縮された。より多くの住民が、道路の通行料を避け、公共の交通機関を利用するようになったのだ。この制度のおかげで中心部から10万台の車を減らすことができ、二酸化炭素などの有害物質の排出量も大幅に減少した。

 2007年、ストックホルムは住民投票を行い、カメラを利用した課金システムを恒久的に導入することを決めた。スウェーデンの試みの成功は、世界的な注目を集め、アジア、ヨーロッパ、北アメリカのさまざまな都市が、高度な技術を応用した課金方式の導入を検討しはじめたのである。

交通渋滞を「新しい道路を作らずに」解決する方法とは?

 交通渋滞は穴のあいたバケツに水を注ぐようなものだ。道路の許容量にはおのずと限界があり、ピーク時にさらに多くの車が押し寄せたら、対処のしようがない。

 「現在、地上には数えきれないほどの道路センサーとカメラがあり、自動的にデータを収集しているので、ほとんどリアルタイムで情報を共有し、分析することができます」と、IBMの高度交通管制事業を率いるナヴィーン・ランバは言う。IBMが分析のサポートに用いたセンサーと通信中継器は、道路の効率性を追跡するうえで不可欠なものとなっている。「データは5分、あるいは7分も時間が経過したら、役に立ちません」とランバは説明する。「ドライバーは渋滞にはまってしまったら、もう抜けだす手段がないのですから」。リアルタイムのデータでさえ不十分なことが多く、道路状況の予測を立てるのはさらに難しい。

交通渋滞を緩和する方法は道路の建設だけではない。「私たちはテクノロジーを駆使して、すでにある資産からより多くの価値を引きだす方法を考えなくてはいけません」とランバは力説する。

 IBMはストックホルムにおいて、直接的もしくは間接的に交通渋滞の原因になりそうなシステムのあらゆる部分を理解するため、モジュラー方式をとった。その結果として生まれたのが、効率的な移動を支援する通信インフラであり、車に搭載された認証タグによって、課金区域を通過すると銀行口座からの引き落としか、コンビニエンスストアでの支払いが自動的に処理されるようになった。この方式は市民の行動と、通勤のあり方そのものに変化をもたらした。課金によって得た収入は、市の幹線道路網の維持などの費用に充てることができる。

ピーク時の課金制度は、局所的な解決策ではなく、いくつもの課題に同時に取りくむ「プラットフォーム全体を巻き込んだ解決策」だった。水もれするバケツはチャンスがあふれる大海原となった。(『「考える」は技術』64-67ページより抜粋)

 ストックホルムを救ったエンジニアたちが使ったのは、「モデル化」という思考の技術だという。それは一体どのようなものなのだろう?

なぜ「モデル化」が問題解決に有効なのか?

 モデル化の利点は、「トレードオフを可視化し」、エプスタインがもっとも重視する「効率性に焦点を当て」、さらに「一見単純なことが複雑であり、複雑なことが単純である」と気づかせてくれることだ。モデル化によって、より多くのデータが必要な領域と、さらに検証しなければならない点があぶりだされる。IBMはストックホルム全域の道路に関して精緻なモデルを構築し、そこから混雑時の課金制度という結論を導いた。(『「考える」は技術』71ページより抜粋)

 一見、解けない問題も、システムレベルで最適化することで解決していく。それを可能にする「思考力」は、大量の仕事の片づけ方から効率的な資源配分の方法まで、あらゆるレベルの、しかも複雑な問題に応用できる。もし今解決の糸口の見えない課題があるなら、IBMのエンジニアたちのように、大きな視点で見なおしてみてはいかがだろう。いつか、日本の行楽シーズンを悩ませる交通渋滞も、解決される日がくるかもしれない。(構成:編集部 廣畑達也)

「モデル化」思考をより詳しく知りたい方は、『「考える」は技術』2章をご覧ください。

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