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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

日本の“改憲勢力”台頭で中国社会が無秩序化する?

加藤嘉一
【第81回】 2016年7月19日
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参院選で改憲勢力が3分の2以上に
中国共産党の宣伝工作に透ける焦り

改憲勢力が台頭した参院選後の日本に対して、中国共産党が発したメッセージからは、中国社会が無秩序化しかねないリスクが透けて見える

 「7月10日午前、日本で参議院選挙の投票が始まった。参議院における半分、すなわち121議席の帰属が確定される。自民党、公明党をはじめとする改憲勢力が参議院で3分の2以上の議席を獲得できるか否かが今回選挙の焦点となる」

 7月10日、中国の国営新華社通信は自由民主党本部の写真付きでこのような記事を配信した。中国共産党のマウスピースと呼ばれる宣伝機関である新華社がどんな内容を、どんな視角から、どのタイミングで配信するかを追っていけば、共産党指導部がいま何を考えているのか、これから何をしようとしているのかがある程度は解読できる。

 今回に限って言えば、冒頭の記事が示しているように、中国共産党指導部は、日本の参院選を“改憲勢力”が3分の2以上の議席を獲得するかの一点に絞ってウォッチしていたように見える。2日後には、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所が南シナ海問題における判決を下すタイミングだっただけに、中国国内世論はそちらのほうにより多くの宣伝・報道資源を費やしていた。しかしそれでも、日本が憲法を改正するか否かという問題は、中国共産党にとっては南シナ海問題と同様に、政権の権威性や安定性に関わる重大テーマである。

 新華社が明確なスタンスとイデオロギーの下、宣伝工作を行っているように私には映った。

 参院選の結果は読者諸氏もご承知の通り、いわゆる“改憲勢力”が3分の2以上の議席を占めることになったという報道が、日本国内ではなされている。新華社も得票数や投票率などを含め、選挙結果の詳細を余すことなく報じていた。ここでは、中国共産党がどのような意図と立場を持っているかをうかがう上で有益と思われる新華社の記事(7月11日付『改憲勢力の勝利は日本の幸いでは決してない』)をレビューしてみたい(記事引用は省略あり)。

 「改憲勢力が勝った危害は明らかである。今回の選挙を通じて、改憲勢力は間違いなく改憲プロセスを加速させるだろう。そして、安倍総理が発議をかけ、国会で通過すればそこからは国民投票の段階に入る。そうなれば、日本の根幹と未来を決定する平和憲法が書き換えられる可能性が出てくる。日本が戦後70年間守ってきた平和憲法が消えてなくなる可能性が高くなるのだ」

 「安倍総理がどんなレトリックを使い、どんな手段で企みを隠したとしても、憲法第9条を改正することの実質は戦後平和憲法の束縛を脱却し、日本が一歩一歩昔の軍国主義の道へと進むことにほかならないのである」

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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