ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ニッポン 食の遺餐探訪

海外で高評価、日本独自のスパイス「山椒」を守る人々

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第45回】 2016年8月3日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
和歌山名産のぶどう山椒。美しい緑をしている

 山椒は高価で取引されることから〈緑のダイヤ〉とも呼ばれている。けれども、一般的に市販されている瓶詰めの粉山椒に慣れ親しんだ人間からすると〈緑〉というイメージはない。

 しかし「山本勝之助商店」の石臼挽きの山椒を味わって、その意味がわかった。そこでつくられている挽きたての山椒は抹茶とも違う、独特の美しい緑色をしていたからだ。

 取材の日、和歌山県、海南駅からタクシーに乗り、山本勝之助商店に向かった。運転手さんに目的地を告げると「阪井の交差点のところにある山物屋(さんぶつや)ですよね」という答えが返ってきた。

 さんぶつや、という聞き慣れない言葉におやっと思っているうちに、車はすぐに目的地に着いた。2007年に重要文化財に指定された趣のある建物の扉を開けると、室内は柑橘系の香りに満ちている。息を吸い込むだけで身体が軽くなるような香りの元は、和歌山名産のぶどう山椒だ。

山椒の一大生産地・和歌山の老舗
「山本勝之助商店」

うおくに商店で販売されている山本勝之助商店の山椒

 山椒は日本人にとって重要な香辛料で、柚子と並んで和食によく用いられる二大香辛料と言っていい。英語名でジャパニーズペッパーというように日本独特のもので、縄文時代から食べられていた。

 日本料理では春先になると冬の柚子に代わり、木の芽が用いられる。木の芽の正体は山椒の葉で、その香りで日本人は春を感じてきた。4月から5月のわずかな期間しかとれない花山椒や佃煮や漬物などに加工する青ザンショウ、魚の毒を消すと言われ、うなぎの蒲焼やどじょう料理に欠かせない粉ザンショウなど用いられ方も様々だ。

 「山椒をつかみ込んだる小なべ哉」(小林一茶)

 という俳句からは、江戸時代に流行したどじょう鍋に粉山椒をたっぷりと加えている様子が想像できる。うなぎやどじょうなど脂を含む魚に山椒をかけて食べていた当時の人の習慣は正しく、粉山椒は実際に消化促進作用があることから漢方薬としても重宝されている。

 山本勝之助商店の土田高史さんと販売を担う乾物店「うおくに商店」の見澤良隆さんからお話を伺った。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

⇒バックナンバー一覧