要約者レビュー

『夫婦という病:夫を愛せない妻たち』
岡田尊司著
河出書房新社 269p 1,400円

 夫婦とは、血のつながりのない他人同士でありながら、最も近い関係である。日々の生活をともにする中で、いいことも悪いことも共有し、血縁の家族と同様またはそれ以上に互いの心の深部まで入り込んでいく。結婚前に互いのことを充分に理解し、結婚後もずっと愛し合うことができるなら、誰も悩みはしないだろうが、現実はそううまくはいかない。結婚前に相手の長所だと思っていた部分も、何かのきっかけで許しがたい短所に見えることも珍しくないだろう。

 本書は、夫婦関係におけるさまざまな悩み、すれ違い、関係性の変化などを21のケーススタディとして描き、その事象の裏にある心理を、精神科医の立場から丁寧に分析した一冊である。ケーススタディで描かれている夫婦像には多くのバリエーションがあるが、誰にでもどこかあてはまる部分や、共感を覚える部分があるのではないだろうか。

 夫婦の関係性を紐解くうえでのキーワードとして、「愛着スタイル」や「自己愛」などが挙げられる。つまり、幼少期の家庭環境や親との関係性が、夫婦の問題に色濃く影響を及ぼしているのだ。見方を変えると、夫婦という関係性を通して、人間の心、生き方、コミュニケーションの本質が浮き彫りになっていくともいえるだろう。

 幼いころからの親子関係が、今の自分の愛情のあり方を左右していることを知れば、それは子育てにも活きてくる。結婚している人、結婚を考えている人のみならず、自分を見つめたいと思うすべての人に大事な問いを投げかける一冊だ。 (竹内 彩子)

著者情報

岡田 尊司(おかだ たかし)

 1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授を経て、現在、岡田クリニック院長(大阪府枚方市)、大阪心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害治療の最前線に立ち、臨床医として現代人の心の問題に向き合い続けている。著書に『悲しみの子どもたち』(集英社新書)、『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)、『愛着障害』(光文社新書)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)、『母という病』(ポプラ新書)、『人間アレルギー』(新潮社)他多数。