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週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記
【特別連載 第13回】 2016年9月26日
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馬場未織

「週末だけ田舎暮らし」を、
築百数十年の古民家から始めてみた

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平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」。彼らが選んだ田舎の家は、築百数十年の古民家だった。そこで、東京家族はどんな新しい日常を綴るのだろうか?今、大きな注目を集める田舎暮らし奮闘記『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

◆これまでのあらすじ◆
東京出身の「田舎素人」だが、「二地域居住」に憧れる一家。たくさんの苦難を乗り越え、ようやく「運命の土地」を手に入れた。そして、生涯忘れられないであろう、田舎での初めての日をとうとう迎えることに。だが、百数十年にわたって他人の歴史が刻まれた家に、一家の心を落ち着けられる空間はあるのだろうか……。

歴史観のある空気を上書きする「こどもおばけたち」

 忘れもしない、2007年1月吉日。

 家の引き渡しは、よく晴れた寒い冬の日でした。

 売り主さんとその親戚の方々が前日より集まり、先祖代々住み続けてきたこの家での最後の1泊をしていました。

 わたしたちが到着すると、最後の最後にみんなで惜しむように家の中をぐるりと歩きまわり、靴を履いてはまた振り返り、じゃあ、と出ていらっしゃいました。

 「分からないことがあれば、連絡ください。これからどうぞよろしくお願いします」
「精いっぱい、頑張ります」

 と言い交わし、手を振って車を見送るときの、ずんと胸にくる重み。

 ついにこの家が自分たちの家になったという晴れがましさよりも、大事なものを本当に引き継いでしまった、そしてとうとう未知の生活が始まってしまったという身の引き締まる思いの方が先立ち、うぉぉぉーっ!と武者震い。

 ほんとに、はじまっちゃったんだもんね。

 週末、田舎暮らし。

 振り返ればやはり、別荘を持つのとは違いすぎるスターティングです。優雅さも華々しさもなく、あるのは気合いと高揚感。自分たちはおろか、まわりのほとんど誰もしていなくて定型のイメージを持つことのできない「週末、田舎暮らし」というライフスタイル。

 これをはじめることに対する思い入れや不安がこれまでの年月の分たっぷり蓄積されていて、それが燃料となってエンジンがかかり、この日、低い唸り声をあげながらようやく走り出したのです。ここまで長かった……でも、これからの方がもっとずっと長い。

 さて、あらためて誰もいなくなった家の中に入ると、以前の内覧時よりずっときれいに掃除されていて、生々しくも整然と暮らしの設しつらえが残されていました。

 売り主さんから伝えられていたとおり、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、コタツ、そして食器や布団、納屋の中には草刈り機や農機具などなど、あらゆる生活必需品をそのまま置いて退去されていました。

 本当に、人だけ交代したような状態。こちらは家族の衣服や洗面道具など旅行のようにちょっぴりの荷物を家に入れると、ひとまず入居は終了です。

 まだその空気に馴染みきらず、コタツの前にちょこんと座って部屋をきょろきょろと見回します。壁に貼ってある長州小力のサインとか、手書きのバス時刻表や灯油屋さんの連絡先とか、神棚に置きっぱなしのダルマとか、妙に細かい部分に目が留まる。

 「とうとう我が家になったなあ!」などと声に出して言ってはみるものの、劇中劇でのセリフのように何か浮ついた声は自分の心にも残らず消えていきます。

 鴨居の上に鎮座していた白黒写真の遺影たちだけは、売り主さんに引き取られてなくなっていました。

 それでも、がらんとした室内には百何十年分の質量のある空気が立ちこめ、今ひょいと侵入したようなわたしたちの存在は耐えられないほど軽く、雇われ留守番人のように所在ありません。正真正銘、この家の所有者になったにもかかわらず……。

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馬場未織 

 

1973年東京都生まれ。1996年日本女子大学卒業、1998年同大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターへ。プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約200往復する暮らしの中で、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、東京に野菜の美味しさを届ける「洗足カフェ」(目黒区)、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営などを手掛ける。

 


週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記

山崎亮氏推薦!「すごくアナログだけど、とても未来的な生活だ。」東京生まれ、会社勤め、共働き、子供3人。「田舎素人」の一家が、都会と里山の往復生活を通して、手さぐり体当たりで見つけたこれからの豊かで新しい暮らし方。土地探しから地域との関わり方、家庭菜園まで、等身大のデュアルライフ入門。

「週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記」

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