ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
田岡俊次の戦略目からウロコ

平和ボケの極み!北朝鮮の事前通告がないと役に立たないミサイル防衛

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第69回】 2016年8月18日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
模擬弾道ミサイル撃破では約80%の命中率を示しているイージス艦「こんごう」だが… Photo:JMSDF

秋田県沖に落ちた北朝鮮のミサイル
政府は全く対応できなかった

 8月3日午前7時53分頃、北朝鮮は同国南西部の黄海南道の殷栗(ウンリュル)付近から弾道ミサイル2発を発射した。1発目は発射直後爆発したが、2発目は北朝鮮上空を横断して日本海に向かい、約1000km飛行して秋田県男鹿半島の沖約250kmの日本の排他的経済水域内に落下した。

 日本政府がこのミサイルの発射を知ったのはそれが落下した後か直前と見られ、ミサイル防衛に当たるはずのイージス艦や、陸上の要地防衛用の「PAC3」ミサイル部隊に「破壊措置命令」は出されず、全国の市町村の防災無線、有線放送などを通じて警報を出すはずの「Jアラート」も役に立たなかった。ミサイル防衛には今年度予算を含め1兆5800億円が注ぎ込まれたほか、「Jアラート」にも消防庁が市町村に交付金を出し普及率は100%になっていた。

 防衛省は「北朝鮮から事前の通告がなかった」「移動式発射機から発射されたため兆候がつかめなかった」と釈明するが、人工衛星の打ち上げと違い、実戦用の弾道ミサイルは当然予告なしに発射されるし、先制攻撃で破壊されないよう自走式発射機に載せるのが一般的だ。日本のミサイル防衛は形だけであることを証明する結果となった。

 北朝鮮はこれまで大型ロケット「テポドン2型」などを使って人工衛星打ち上げを目指し、2012年12月12日と今年2月7日、小型衛星を地球周回軌道に乗せることには成功した。これは米戦略軍総合宇宙運用センターが確認している。衛星は2回とも故障した様子で電波を出していないが、ロケットの第3段が高度500km付近で水平方向に加速、周回軌道に物体を放出した飛行パターンは人工衛星打ち上げを狙ったとしか考えられない。軍用ミサイルならさらに上昇して頂点に達した後、放物線を描いて落下する。

 「テポドン2」は全長30m、重量90tもの大型で、高さ67mもの固定式発射機の側で2週間以上かけて組み立て、燃料を注入して発射している。海岸近くの発射場で衆人環視の中、戦時あるいは緊張時にこんな悠長な作業をしていては航空攻撃などで簡単に破壊される。また北朝鮮は発射の前にその日時(幅がある)や第1段、第2段のロケットの落下予定地点を国際海事機関に通報していた。

 防衛省は従来その通報を受けて「破壊措置命令」を出しイージス艦を出港させたり、ミサイル防衛用の「パトリオット・PAC3」を防衛省の庭や沖縄の宮古島、石垣島などに展開したが、これは実は「ミサイル」に対する防衛ではなく、人工衛星打ち上げ用ロケットが不具合を起こして落下して来ることへの対策になりうる程度だった。現実には、ミサイル防衛に巨費を投じることが国民の安全を守る役に立つ、と宣伝し予算を確保するための行動の色が濃かった。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

「田岡俊次の戦略目からウロコ」

⇒バックナンバー一覧