筆者は通貨(為替)については学生のころから長年研究してきた。卒論も通貨について書き、銀行勤務時も為替ディーラーやエコノミストなど為替関係の仕事もしながら研究を続け経済学の博士号も取得した。関連書籍を何冊も書いてきた。そんな中でいつも気になっていたのは、円高は日本経済・日本企業にとって本当に悪いのか?ということだ。それは「思い込み」の可能性が高いのではないかと考えている。
トヨタ自動車の営業利益予想
「真水」で見れば過去最高水準
先日も、トヨタ自動車は2017年3月期の連結業績予想を下方修正し、営業利益が前期比44%減と発表された。円相場の前提を1ドル=102円(前期実績は120円)と円高方向に見直したためである。それでも世界販売台数は前期比1%増えるなど競争力はなお強い。為替変動の影響を除いた「真水」の営業利益は過去最高の前期とほぼ同じ水準を確保する、としている。
企業において、円為替レートの影響が出るのは、主として(1)輸出(売上)と、(2)決算(営業利益)の部分である。
まず、輸出(売上)の部分は、先日発表された「財政経済白書」にもあるが、もはや円安でも輸出は伸びない。その主たる原因は日本企業による海外生産の拡大で、為替の影響を受けずに済むようそうしたわけだから、ある意味当然だ。「財政経済白書」では、他にも電気機器などの輸出競争力の低下なども挙げている。全体で見ても輸出のGDPに対する影響は、10年前に比べて4分の1になったともいわれている。確かに、アベノミクスの導入で1ドル=125円レベルの円安になったが、輸出はそれほど伸びず、GDPに与える影響も少なかった。構造が変わったのである。
そもそも、現在では日本の輸出がGDPに占める割合は、わずか15%程度だ。約40%のドイツや韓国とは違うのである。そのため為替が景気に与える影響が大きいというのも、すでに「思い込み」に近くなっている。
そして、決算、特にトヨタ自動車の決算報道に見られるように、海外での営業利益がドル建てであったとすると、ドルに対して円高が進めば、海外での営業利益は“評価上”少なくなる。日本企業は自国の会計基準に合わせ円建てで決算書を作るので、そうなるかもしれない。しかし、それはそれほど重視すべきものなのか。