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宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説

「円高で株安になる」は本当か

宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト]
【第42回】 2016年8月24日
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 筆者は通貨(為替)については学生のころから長年研究してきた。卒論も通貨について書き、銀行勤務時も為替ディーラーやエコノミストなど為替関係の仕事もしながら研究を続け経済学の博士号も取得した。関連書籍を何冊も書いてきた。そんな中でいつも気になっていたのは、円高は日本経済・日本企業にとって本当に悪いのか?ということだ。それは「思い込み」の可能性が高いのではないかと考えている。

トヨタ自動車の営業利益予想
「真水」で見れば過去最高水準

 先日も、トヨタ自動車は2017年3月期の連結業績予想を下方修正し、営業利益が前期比44%減と発表された。円相場の前提を1ドル=102円(前期実績は120円)と円高方向に見直したためである。それでも世界販売台数は前期比1%増えるなど競争力はなお強い。為替変動の影響を除いた「真水」の営業利益は過去最高の前期とほぼ同じ水準を確保する、としている。

 企業において、円為替レートの影響が出るのは、主として(1)輸出(売上)と、(2)決算(営業利益)の部分である。

 まず、輸出(売上)の部分は、先日発表された「財政経済白書」にもあるが、もはや円安でも輸出は伸びない。その主たる原因は日本企業による海外生産の拡大で、為替の影響を受けずに済むようそうしたわけだから、ある意味当然だ。「財政経済白書」では、他にも電気機器などの輸出競争力の低下なども挙げている。全体で見ても輸出のGDPに対する影響は、10年前に比べて4分の1になったともいわれている。確かに、アベノミクスの導入で1ドル=125円レベルの円安になったが、輸出はそれほど伸びず、GDPに与える影響も少なかった。構造が変わったのである。

 そもそも、現在では日本の輸出がGDPに占める割合は、わずか15%程度だ。約40%のドイツや韓国とは違うのである。そのため為替が景気に与える影響が大きいというのも、すでに「思い込み」に近くなっている。

 そして、決算、特にトヨタ自動車の決算報道に見られるように、海外での営業利益がドル建てであったとすると、ドルに対して円高が進めば、海外での営業利益は“評価上”少なくなる。日本企業は自国の会計基準に合わせ円建てで決算書を作るので、そうなるかもしれない。しかし、それはそれほど重視すべきものなのか。

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宿輪純一[経済学博士・エコノミスト]

しゅくわ・じゅんいち
 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で10周年、開催は200回を超え、会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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「円安は日本にとってよいことなんでしょうか?」「日本の財政再建はどうして進まないのでしょうか」。社会人から学生、主婦まで1万人以上のメンバーを持つ「宿輪ゼミ」では、経済・金融の素朴な質問に。宿輪純一先生が、やさしく、ていねいに、その本質を事例をまじえながら講義しています。この連載は、宿輪ゼミのエッセンスを再現し、世界経済の動きや日本経済の課題に関わる一番ホットなトピックをわかりやすく解説します。

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